【ポジショナルプレーの戦い②】ポジショナルプレーの祭典

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【ポジショナルプレーの戦い②】ポジショナルプレーの祭典

前回「ポジショナルプレーの戦い① ポジショナルプレーとゾーンディフェンス」と題して、私なりのポジショナルプレーの解釈を記事にしました。ポジショナルプレーとは「ボールの位置を基準に正しいポジショ二ングを取り、それにもとづく優位性を活用するプレースタイル」です。

選手たちが試合で発生するいろいろな状況に応じて正しいポジショニングを取ることで、数的優位や質的優位といった相手にダメージを与える効果を得られます。現在のマンチェスターシティの試合を見ると、随所にポジショナルプレーの強さを感じられるでしょう。

ただ、私自身まだまだポジショナルプレーの理解が浅いので、今回はそんなポジショナルプレーの強さを全世界に知らしめた1戦である2010−11シーズンのレアルマドリード戦を通じて、ポジショナルプレーの有用性を皆さんと共に理解していければと思います。

試合結果は5-0のバルセロナの圧勝でした。ただスコア以上に試合内容で圧倒してました。レアルマドリードの選手たちはまったく有効な対策を打てず、バルセロナに好き放題される展開。このような試合内容になったのは、言わずもがなポジショナルプレーが非常に有効なプレースタイルだからです。

正しいポジショニングを取り続けるバルセロナの選手たちによって、レアルマドリードの守備網は簡単に穴を空けられ、どんなにがんばってもボールを逃がされる状況が続きました。まさに「ポジショナルプレーの祭典」と言える試合でした。

今回の記事は前半と後半に分けて書きます。まずはレアルマドリードの守備を説明し、次にそれに対するバルセロナの対応を説明していくことで、ポジショナルプレーがどのように機能したかを理解していただければと思います。

では、お楽しみください。

前半:レアルマドリッドの守備

まずは前半に関して。レアルの守備は、「無理な縦パスもしくはロングボールを奪取する」と「右サイドに誘導する」ことの2つをメインにしているように見えました。バルセロナがロングボールをあまり使わずショートパスを多用することはわかっていることです。

また、右サイドのSBアウベスが高いポジションを取るので、右サイドでボールを奪取できれば大きなカウンターチャンスになることもわかっています。なので、レアルはそこを狙った守備を行っていたように思います。今回のレアルの守備の特徴を1つずつ見ていきましょう。

縦パスを警戒

まずは「縦パスを警戒」です。警戒といっても、無理な縦パスをしてもらうことを狙っている部分もあったでしょう。レアルの守備陣はバルセロナの選手たちと比べてフィジカル的には優位なので、バルセロナにとって不利な状況でボールを持たれても、フィジカルを武器にボール奪取できる可能性が高いからです。実際にレアル守備の動きを見ていきましょう。

縦パスを警戒
縦パスを警戒
縦パスを警戒
縦パスを警戒
縦パスを警戒

シャビがボール保持してからの一連の流れです。この一連の流れの中で特徴的なのは、ボール保持者に激しくアタックしに行かないところです。DFラインでボールを回させていることに関しては問題なしということでしょう。

理由は先ほど述べた通り、無理な縦パスもしくは裏へのロングボールには競り勝てる可能性が高いからです。また、最後の画像を見てもらえればわかる通り、ピケがドリブルで進行したところを狙って、レアルの選手(エジル)が激しくアタックしに行っています。

この一連の流れは結局、ロングボール→ヘディングに競り勝つという、レアルの思惑通りの結果になりました。前半は同じように、DFラインで回させる→無理な攻撃に激しくアタック→ボール奪取という狙いがよく見られました。

ただ、「狙いがよく見られた」と表現した通り、この守備はすぐに崩されて、逆にポジショナルプレーにうまく利用されます。

右サイドに誘導→奪取

次に「右サイドに誘導→奪取」です。これはアウベスの空けたスペースをカウンターでつくための守備だと思います。バルセロナはSB(サイドバック)アウベスをWG(ウイング)の位置まであげて、ピケ、プジョル、アビダルの3CB(センターバック)のようなフォーメーションになります。

右サイドに誘導→奪取

上の画像のように3CBになりますが、レアルの守備では、ピケにボールを持たせるように誘導します。まずプジョルには誰もあたりに行かず、サイドにボールを逃がすように誘導します。

右サイドに誘導→奪取

サイドにいるアビダルにボールが渡った場合は、イニエスタがサイドライン際にポジションを取りますが、これにはケディラがべったりついていき、左サイドにボールを展開されないようにします。

右サイドに誘導→奪取

アビダルからピケにボールが渡ります。

右サイドに誘導→奪取

中央にブスケッツがいるので、まだレアルは激しくあたりに来ません。

右サイドに誘導→奪取

レアルはブスケッツにあたりにいきます。アビダルはレアルの選手にマークされているので、ピケにもう一度リターンします。

右サイドに誘導→奪取

レアルの選手が激しくアタックしにいきます。アタックした理由は、中央へのパスコースを制限できているためです。このように右サイドに誘導し、中央へのパスコースを制限できる状況を作り出せた場合に、ボール奪取を狙いに行くという守備になっていました。

右サイドに誘導→奪取
右サイドに誘導→奪取

上の画像も同じですね。ただ、この守備の狙いも前半5分間しか機能していませんでした。

アウベスへの警戒

バルセロナの大きな攻撃パターンとなっているアウベスの存在。大外から駆け上がってくるアウベスを90分間捉え続けるのは難しいことです。今回のレアルを含めて、多くのチームがアウベスに対して、SH(サイドハーフ)の選手をDFラインに落として対応させることを選んでいます。

アウベスへの警戒

これによってカウンター時にSHが低い位置からの攻撃参加になるので、カウンターの威力は下がりますが、レアルの攻撃力があれば問題なしともいえます。アウベスにやられることと天秤にかけるのなら、正しい対策と言えるでしょう。

2センターの中盤守備

今回レアルは4−2−3ー1のフォーメーションです。ただ、ロナウドが高い位置に留まり、ディマリアがアウベスについていくという守備によって、2センターのアロンソとケディラが大きな範囲をカバーする必要が出てきます。2人の守備はどちらのサイドにボールがあるかによって、マンマーク気味についていく係と中央のスペースをケアする係に分かれます。

2センターの中盤守備
2センターの中盤守備

2つの画像を見てわかる通り、2人で広大な範囲をカバーしています。これは前半におけるレアル最大の失敗の1つだと思います。

エジルの中盤の穴埋め

先ほど述べた通り、2センターで広大な範囲をカバーしているのが今回の守備の特徴です。ただ、相手はバルセロナであり、素早くパスを展開されると埋め切れないほどのあまりにも広大な範囲だといえます。なので、トップ下のエジルが度々空いたスペースを埋める仕事を担っています。

エジルの中盤の穴埋め

ただ、この対応には豊富な運動量が求められます。エジルはバルセロナDFラインの牽制も担っており、また毎回スペースをカバーできるほどの運動量を持ち合わせていません。これはレアルの誤算の1つだったでしょう。

DFライン裏抜け優先

今回のレアルのDFラインは裏抜けに対して優先的に対応しているように思えました。なので、中盤でバルセロナの選手がフリーでボールを受けようとしていても、持ち場を離れてボールにアタックするのではなく、持ち場に留まることを優先していました。

DFライン裏抜け優先

メッシがフリーになっています。レアルの中盤(アロンソ)はメッシのマークに間に合っていません。ただ、メッシの正面にいるSBのマルセロはメッシにあたりにいく素振りはなく、半身で裏抜けに備えています。

このようにDFラインは中盤でのボール奪取を狙うのではなく、裏抜けのボールへの対応を優先しているように見えました。ただ、下の画像のように潰せそうな時は、しっかりとボールにアタックします。

DFライン裏抜け優先

前半:バルセロナの狙い目

これまでレアルの守備の特徴を見てきました。説明してきた各特徴に対して、バルセロナはポジショナルプレーを行い、前半で2ゴールを奪っています。ここでは、バルセロナがどのようにレアルの守備網を破壊したのかを、FWライン、MFライン、DFラインの3つに分けて説明していきます。

FWラインの攻略

FWラインの攻略には、レアルの守備の特徴の1つである「縦パスを警戒」を利用します。低い位置でのボール回しにはあまり積極的にボールにアタックしに行かないレアルの守備に対して、バルセロナは容易にフリーマンを作り出せました。下の画像のように、シャビが下に降りることによって、4対3の状況を作り出せていることがわかります。

FWラインの攻略

右サイドでピケがボールを持っています。レアルの選手はあたりに来ません。

FWラインの攻略

シャビにボールが渡ります。まだレアルの選手はあたりに来ず、縦パスを警戒しています。なぜなら中盤にメッシがいるためです。このメッシのポジショニングはポジショナルプレーでよく見られるもので、FWライン攻略にはとても重要です。

また、この時ブスケッツがフリーになっていることがわかります。このブスケッツのポジショニングも重要です。レアルの選手の中間(エジルとロナウドの間)で、シャビと同じ高さにいることで、レアルの選手のゾーンから離れている位置にいることができ、前方への展開を素早く行うことができます。下のイラストも参考にしてください。

FWラインの攻略

バルセロナの選手がゾーンの隙間でポジションニングをしていることがイメージできると思います。このようにポジショニングすることで、「安全にボールを持てる」、「ボールを展開しやすい」という効果を得られます。今回のプレーでも安全にFWラインを攻略できました。続きをご覧ください。

FWラインの攻略

フリーで受けたブスケッツは、前方にいるイニエスタやビジャに展開することができる状態になっています。ブスケッツが先ほど説明したポジショニングを行ったおかげで、すぐに前方にパスができる状態です。このようにして、FWラインを攻略していきました。

次の場面では、「エジルの中盤の穴埋め」と「アウベスへの警戒」も利用して攻略した場面です。

FWラインの攻略
FWラインの攻略

レアルのFWラインが3対4の数的不利なので、ピケがフリーでボールを持つことができました。ここで一度中央にいるメッシにパスを出します。

FWラインの攻略

エジルとアロンソがメッシを囲みボール奪取を狙いますが、素早くピケにリターンされます。

FWラインの攻略

上の画像を見てわかる通り、ピケに対しては2センターの一人であるアロンソがアタックしにいっています。これはSH(サイドハーフ)のディマリアがアウベスに対応して、DFライン付近まで下がっているからです(上画像右下)。

また、アロンソがサイドに出ることによってできる中央のスペースにはメッシがいるので、それをカバーする形でエジルがMFラインまで下がります。

FWラインの攻略

ピケからシャビにパスが渡り、シャビはFWラインを突破し、MFラインの前でフリーでボールを持つことができました。このように、レアルの守備の特徴を利用するように適切にポジショニングすることで、FWラインを突破することができました。

この一連の流れでも、バルセロナの選手がゾーンの隙間にポジショニングを取ることで、安全に、そして効果的にフリーマンを作りだし、FWラインを攻略していることがわかりますよね。以上のように、バルセロナはレアルのFWラインを完全に攻略した試合でした。

MFラインの攻略

MFラインの攻略には、「2センターの中盤守備」、「エジルの中盤の穴埋め」、「DFライン裏抜け優先」の3つのレアル守備の特徴を利用します。

MFラインの攻略
MFラインの攻略
MFラインの攻略

左サイド寄りでシャビがボールを保持し、右サイドに移動したブスケッツへパスした場面。この時、メッシがフリーになっています。これはレアルの守備の特性上、必然のことです。まずシャビが左サイドよりにボールを持つことで、2センターが左サイドよりにポジショニングします。

具体的には、ケディラはイニエスタをマークし、アロンソが中央をカバーするポジショニングをします。よってMFラインの右サイド側に大きなスペースができます。また、SBマルセロは裏抜け対応を優先しているので、メッシにアタックする素振りはありません。イラストでも確認してみましょう。

MFラインの攻略
MFラインの攻略
MFラインの攻略

続きを見ていきましょう。

MFラインの攻略

メッシがボールを持ちます。この時、シャビが後方からMFラインまで上がってきていますが、エジルはまだFWラインにいます。つまり、イニエスタを加えて、レアルはMFラインで2対3の数的不利になっており、アロンソとケディラの間にスペースがあります。

このようにエジルが間に合わない場面が前半に頻繁に見られました。この2センターとエジルの守備の弱点をつき、MFラインを攻略します。

MFラインの攻略

シャビとのワンツーを経て中央でメッシがボールを保持しています。右サイドで一度ボールを保持されたので、ケディラとアロンソは右サイド寄りのスペースをケアしています。つまり左サイドをケアできていません。なので、MFラインの裏で3選手がボールを受けられる状態です。

対するレアルの選手はSBとCBの2人のみ。つまり2対3の数的不利の状況がここでも生まれています。このような状況になれば、あとは3人のうち1人にパスを出せば、MFラインを攻略できます。この場面ではイニエスタにパスを出して、MFラインを攻略しました。

MFラインの攻略

上の場面のように、MFラインの裏でフリーマンを作り出せるケースが非常に多かったです。このような状況になったことに関して、今回のレアルの守備の特性が影響していることはいうまでもないでしょう。以下の場面も同様ですね。

MFラインの攻略
MFラインの攻略

MFラインの攻略に関しても、レアルの守備の特性を利用したポジショナルプレーを行い、試合を優位に進めていけたと言えるでしょう。

DFラインの攻略

FWライン、MFラインの攻略をしっかり行えていたので、DFライン攻略に有益なフリーマンを作ることができています。あとは、そのほかの選手がうまく動くことが必要です。

バルセロナでは、WG(ウイング)のペドロとビジャ、FWメッシだけでなく、シャビとイニエスタもDFラインの裏抜けなどを行います。5人が根間苦しく動き回ることでマークが追いつきにくく、効果的にゴールを奪うことができます。

DFラインの攻略

この場面ではシャビがDFラインの裏へ走り込んでいます。CBはイニエスタとその前にいるペドロへの対応に追われています。またケディラはイニエスタ、アロンソはメッシ、SBは左サイドのビジャへそれぞれ対応しているのがわかります。

DFラインの攻略

シャビがボールを持っている場面。まず、メッシが裏に走り込み、CB2人が釣られて動いています。なぜならシャビがフリーでボールを持っており、容易に裏に効果的なボールを入れられる状況だからです。

この動きによって、DFラインに大きな穴が開きました。その穴を狙ってイニエスタが裏抜けを狙います。これに対してラモスが対応しますが、左サイドのビジャが完全にフリーになっています。続きを見ていきましょう。

DFラインの攻略

シャビがビジャへ展開し、左サイドで1対1を仕掛ける状況になりました。レアル選手のカバーが間に合っておらず、数的優位という守備の原則を守れていません。

 以上の2場面をご紹介しました。この2つの場面は、どちらとも得点に繋がった場面であり、ポジショナルプレーの実践により、レアルにとって不利な状況を作り出していることがお分かりいただけたと思います。

前半:得点シーン

ここでは、前半の得点シーンをご紹介します。前半だけでバルセロナは2得点。どちらの得点も、レアルの守備の特徴を利用した得点となっています。1点ずつ見ていきましょう。

1点目

一連のプレーを少しずつ見ていきましょう。

1点目

シャビにボールが渡ります。エジルはブスケッツに対応していますが、ベンゼマはシャビかピケか、どちらに対応するか曖昧になり、結果としてシャビへの対応が遅れます。FWラインの攻略の説明で述べた通りですね。

1点目
1点目

シャビのボールキープから右サイドに移動したブスケッツがフリーでボールを受け、FWラインを攻略します。MFライン攻略時にご説明した通りメッシがフリーになっています。ここからは、MFラインの攻略で説明した通りに、左サイドでフリーになっているイニエスタにボールが渡り、MFラインを攻略します。

1点目
1点目
1点目

シャビがDFラインの裏抜けを狙っているのが分かります。ここで重要なのは、マルセロが対応に遅れていることです。2点目もそうですが、マルセロのカバーの動きが遅いのがレアル守備の弱点でした。

1点目
1点目

裏抜けに成功したシャビにイニエスタが素晴らしいパスを通して1点目を奪いました。レアルの守備の特徴をうまく利用した得点でした。

2点目

2点目も1点目と同じくレアルの守備の特徴を利用したプレーでの得点でした。少しずつ見ていきましょう。

2点目

ピケが右サイドでボールを持っています。アロンソが縦パス警戒のポジショニングをしようとしているところが確認できますね。ここで左サイドにいるメッシの動きに注目しながら次からも見てください。

2点目

アロンソの動きとケディラの中央のケア、そしてエジルのスペースを埋める動きの遅れを利用して、シャビが中央でボールを受けます。

2点目

2センターの中盤守備とDFラインの裏抜け優先の守備を利用して、イニエスタがフリーでボールを受けます。また、メッシがまだ左サイドでい続けていることが分かりますね。

2点目
2点目
2点目

ペドロとのボール交換からイニエスタがシャビへパス。一連の流れで、左サイドに大きなスペースが存在します。そのスペースをブスケッツが狙い前進しますが、ベンゼマが対応しようとしています。

2点目

ブスケッツは対応されたので、一列後ろにいるプジョルにパスします。ここで注目して欲しいのが、左サイドでメッシがフリーになっていることです。フリーになっている理由は、これまで説明してきた通り、レアルの守備の特徴を利用したからです。

このメッシのポジショニングがメッシを最高の選手たらしめる1つの理由だと思います。この未来を読む能力は途轍もない強力な武器です。続きを見ていきましょう。

2点目
2点目
2点目

メッシが右サイドに侵入し、外に張っていたペドロにパスを出します。メッシのドリブルは強力ですから、ディフェンス陣は彼を基準に非常にコンパクトにならざる負えません。なので、大外のペドロがフリーでボールを受けることができるのです。続きを見ていきましょう。

2点目

メッシの裏抜けによって、2センターが引っ張られます。またエジルもMFラインのサポートに回ってません。なので、シャビがフリーでボールを受けることができました。ここから一気に得点への動きを加速させます。

2点目
2点目

ビジャに展開し、サイドで1対1。ビジャが1対1を制して、中へクロスをあげます。1点目と同じく、マルセロはCBが空けたスペースのカバーが遅れ、そこをペドロに突かれて2点目を献上してしまいました。2点目も1点目と同じく、レアルの守備の特徴をうまく利用して奪ったものでしたね。

4:前半統括

前半の統括です。一言で言えば、バルセロナの圧勝でしたね。レアルの守備は何もうまくいかず、ただバルセロナに遊ばれているような感じでした。今回レアルが用意した守備戦術は、このバルセロナにとっては簡単に崩せるものだったということは、これまでの説明でわかっていただけたでしょう。

バルセロナにゾーンの隙間を与え過ぎたこと、ボールにあまりアタックしなかったことの2つによって、バルセロナは水を得た魚のようにレアルにダメージを与えていた印象でした。後半はどのようになるのか、見ていきましょう。

後半:レアルマドリッドの守備

後半を見ていきましょう。まず後半開始から、エジルを下げてディアラを投入しました。ディアラはボランチの選手ですので、MFラインの守備の強化のためでしょう。

また、フォーメーションを4−3−3に変更し、アロンソ、ケディラ、ディアラの3センターのMFラインを守ります。ロナウドが左サイドに移動し、ディマリアが右サイドに移動しました。

なので、アウベスにはロナウドが対応することになっています。これはカウンターに備えた形でしょう。ただ、ロナウドは守備をあまりしませんので、あまり良い結果を生み出さなかったことを先に言っておきます。

それでは、まず後半のレアルの守備の特徴を見ていきましょう。なお、前半の説明で述べた項目は再度説明しませんのでご了承ください。

3センターの中盤守備

前半で説明した通り、2センターの守備は全く機能していませんでした。なので、後半はそこを修正しました。

3センターの中盤守備

3人でシャビ、メッシ、イニエスタ、ブスケッツに対応する形を採用しました。3センターの役割は基本的に中盤にいる選手、特にシャビとイニエスタにマンマーク気味に対応することでした。

3センターの中盤守備

中央のスペースを埋める動きをすることも多少はありましたが、メインの仕事はマンマーク気味の対応でしたね。これは後半のレアルの間違いの1つでした。詳細は後ほど説明します。

 3センターの対応において、右サイドにボールが出た際には少し変わります。サイドでボール保持している選手に対して、SBとCHの1人があたりに行く形になります。

3センターの中盤守備

残りのCHはマンマーク気味に中盤の選手をマークします。後半は、3センターがこのように動くことがレアルの守備の特徴の1つです。

ボールに激しく当たりにいく

2つ目の変更点は、「ボールに激しく当たりにいく」です。前半は相手のミスを待つ守備でした。縦パス警戒の守備がそれに当てはまります。しかし、その守備が全く機能せず、バルセロナの好きなようにボールを回されたのが前半でした。後半は果敢にボールにアタックしにいく姿が見られました。

ボールに激しく当たりにいく
ボールに激しく当たりにいく
ボールに激しく当たりにいく
ボールに激しく当たりにいく
ボールに激しく当たりにいく
ボールに激しく当たりにいく

後半開始早々の一連のプレーですが、前半と違ってボールにあたりに行っていることが分かります。なので、バルセロナも思ったようにボールを回せていません。

この変更は良い判断だったと思います。後半は3失点してしまいますが、これはボールに激しくあたりに行ったのが原因ではないです。

それが証拠に、これ以降のレアルのバルセロナ戦の守備は「ボールに激しくあたりに行く」ことが基本となっています。前半の45分だけで、その必要性を見抜いたモウリーニョはやはり名将の1人でしょうね。

後半:バルセロナの狙い目

次にバルセロナのプレーを見ていきましょう。なお、FWラインの攻略は特に説明することもないので割愛します。試合を見る限り、FWラインの守備はほとんど意味がなかったからです。

MFラインの攻略

MFラインの攻略においては、レアルの3センターの守備をうまく活用しました。また、その助けとなったのはロナウドの守備です。ディマリアは献身的に守備をやってくれますがロナウドはそうではないので、バルセロナにうまく弱点をつかれたような形になりました。それでは見ていきましょう。

MFラインの攻略

右サイドでアウベスがボールを持っています。この場面の前にいろいろあった結果ですが、3センターはマンマーク気味の守備なので、ゾーンディフェンスのようにはポジショニングしていないことがわかるでしょう。中央でメッシがフリーになっていますね。続きを見ていきましょう。

MFラインの攻略

ペドロに展開しました。SBのマルセロが対応し、CHのディアラがサポートに入ります。先ほど説明した守備の特徴です。

MFラインの攻略

ペドロからシャビにパスが通ります。シャビに対してはアロンソがアタックしに行っています。ここで注目なのは、ケディラのポジショニングです。中央のスペースをカバーするのではなく、イニエスタのマークについています。結果として、中央でメッシがフリーになっています。

MFラインの攻略

アウベスにボールが渡りました。アロンソがシャビのマークではなく、アウベスに少しだけ近づいていることが分かります。これはロナウドが守備をあまりしないことが原因なのかは定かではありませんが、3センターで中盤を守るという後半の守備の特徴が出ている場面と言えます。

MFラインの攻略

メッシにボールが渡りました。アロンソは先ほどのアクションによって対応が遅れています。その代わりにディアラがあたりにいきます。それによってシャビがフリーになります。

MFラインの攻略

完全にDFラインの前で、シャビがボールを前を向いて保持しています。MFラインの攻略完了です。このように、3センターのマンマーク気味の守備、ケディラのイニエスタ優先、ロナウドの守備を利用して、MFラインの攻略がよく見られました。

他の場面では、アウベスがフリーマンとしてMFラインを攻略した一連の流れです。

MFラインの攻略
MFラインの攻略
MFラインの攻略
MFラインの攻略

前半の2センターが機能せず、後半開始から3センターにしたレアル。しかし、その3センターに対してバルセロナは、シャビ、イニエスタ、メッシだけでなく、ブスケッツとアウベスも攻撃に参加したので、3センターでもMFライン攻略を阻止できなかったというのが後半でしたね。

DFラインの攻略

続いて、DFラインの攻略に関して。DFライン攻略に関しても、3センターのマンマーク気味の守備、そして前半同様DFラインの裏抜け優先の守備を利用して攻略していきました。

DFラインの攻略
DFラインの攻略

マンマーク気味の中盤の守備を攻略し、サイドにいるメッシに展開。メッシがDFラインに対して前を向いてドリブルを開始する場面。マンマーク気味なので、ディアラとアロンソがメッシにあたりにいけていません。

DFラインの攻略

まず、ビジャにCBぺぺが裏抜け対応をします。オフサイドを狙うのではなく、ついていく守備ですね。

DFラインの攻略

シャビが裏を狙う動きをしています。その横でケディラがシャビをマークしようとついていく動きを見せます。まだメッシには誰もあたりにいけていません。

また、先ほどのぺぺの対応によって、DFラインは一直線ではないので、オフサイドにするのは不可能ですね。

そして、逆サイドにイニエスタがいるので、SBのラモスもそこまで中央に絞れません。このサイドに張るポジショニングは、ポジショナルプレーでは非常に重要なものです。

DFラインの攻略

メッシからシャビへパスが出ました。ケディラが少し遅れていますね。やはり、2列目からの飛び出しはマークしづらいものです。また、イニエスタのポジショニングによって、ラモスのカバーの動きも遅いですね。

DFラインの攻略

シャビにパスが通りシュートを打ちますが、惜しくもゴールにならず。ただ、完全にレアルのDFラインを攻略した攻撃でした。3センターのマンマーク気味の守備、DFラインの裏抜け優先の守備、この2つによってメッシは自由にプレーすることができました。

前線の選手のみならず、シャビやイニエスタも裏抜け等を狙うので、レアルの守備陣は完全に後手に回る結果となりました。

DFラインの攻略にはいろいろありますが、3センターのマンマーク気味の守備、DFラインの裏抜け優先の守備というレアルの守備をうまく活用した形を使用するのは変わりありません。

後半:得点シーン

バルセロナは後半に3得点を奪いました。1つずつ見ていきましょう。

3点目

3点目

アウベスがカウンターを防ぎ、ボールを保持している場面。

3点目

シャビにボールが渡ります。まずシャビにはディアラがあたりに行きますが、その横でアウベスがフリーになっています。なので、ディアラもそこまでシャビにあたりにいけません。また。DFラインの前にメッシがいますが、メッシのマークはCBではなくCHのアロンソが行っています。続きを見ていきましょう。

3点目

アウベスにボールが渡りMFラインを攻略し、ドリブルを開始します。

3点目

サイドのペドロにボールが渡ります。

3点目

まず、アウベスが裏抜けを行い、CBとCHのアロンソを引っ張ります。そして、ディアラとケディラはそれぞれ、イニエスタとシャビをマークしています。この対応によってメッシがDFラインの前でフリーでボールを受けます。

3点目
3点目

フリーでボールを持ったメッシはドリブルを開始し、裏抜けしたビジャにパス。きっちりと決めて3点目を奪いました。完全にレアルの守備の特徴を利用したプレーでした。

4点目

4点目はカウンターでの得点。

4点目

ディアラからボールを奪取。ブスケッツがボールを保持します。

4点目

メッシにボールが渡りドリブルを開始します。

4点目
4点目
4点目

メッシがドリブルでMFラインを攻略します。

4点目
4点目
4点目

裏抜けしたビジャにパスを出し、しっかり決めて4点目。

 これは今では当たり前になっていますが、MFラインでメッシが1対1を仕掛けられる状況になれば、ほぼ死んだも同然です。メッシのドリブル成功率が欧州1くらい高いので、上のような状況になればMFラインは攻略され、簡単にゴールチャンスを作れます。

事実として、これ以降のレアルは、MFラインでメッシとの1対1の状況を作られないようにディフェンスしているのが見られます。

5点目

5点目は後半終了間際でした。

5点目

アウベスが右サイドでボールを持っている場面。

5点目

イニエスタにボールが渡ります。3センターがアウベス、イニエスタ、シャビに対応しようとしています。

5点目

プジョルにパスを出します。FWベンゼマがあたりにいきます。

5点目

アウベスにパスを出します。その間にイニエスタはアロンソのマークを外します。また、CBのカルバーリョがメッシのマークをしているのも大事です。これまであまりマークをしませんでしたが、この場面ではしています。

5点目

イニエスタにパスが通ります。レアルのプレッシャーによってアウベスのパスも浮き球になっていますし、SBのマルセロもイニエスタにあたりに行っています。ただ、あのイニエスタですので、このような状況でも前方でフリーになっているFWのジェフレンにパスを出せます。

5点目
5点目
5点目
5点目

イニエスタからのパスが通り、ディフェンスと数的同数のカウンターを仕掛け、5点目をもぎ取ります。

このゴールにも現れていますが、SBのマルセロを含めレアルの選手たちは、バルセロナの選手たちと距離が比較的離れていたので、あたりに行ってもしっかりボール奪取やプレーの阻害を行えませんでした。試合を通してそのようなプレーが多発し、5失点を喫してしまった感じがありますね。

4:後半統括

後半開始早々から守備を変更してきたレアルですが、チーム全体としての守備ができていなかった印象です。FWラインの守備は特になく、MFラインもDFラインもそれぞれバラバラに守っていたように思えます。

3センターの採用は悪くなかったですが、バルセロナはかなり流動的にMFラインの攻略を狙うので、3枚だけではMFラインは守りきれないということが分かりました。

また、選手間の距離感も非常に大事だと思います。後半からボールにあたりいく守備に切り替えたのは正解だと思いますが、バルセロナの選手たちとの距離が離れすぎていたため、十分なプレッシャーをバルセロナに与えることができていませんでした。

ただ、15分間のハーフタイムでそこまでの大きな変化を加えることは難しいことだったことはいうまでもないですね。

まとめ:【ポジショナルプレーの戦い②】ポジショナルプレーの祭典

今回は2010−11シーズンのバルセロナ vs レアルマドリッドの試合の分析を通じて、ポジショナルプレーの説明と有用性をご紹介しました。ゾーンの隙間でのポジショニングを利用して、相手の弱点をつき、ゴールを奪っていくというプレースタイルを、この試合を通じて理解していただけたと思います。

 今回のレアルの守備は、バルセロナと戦う上で不十分なものでした。しかし、この試合以降レアルは別人になったかのように戦い、バルセロナとやり合えるチームになっています。次回は2011−12シーズンのバルセロナ vs レアルマドリッドの分析を通じて、ポジショナルプレー対策をご紹介していきます。ポジショナルプレー対策を知ることで、よりポジショナルプレーを理解できると思いますので、ぜひ次回の記事もご覧ください。

今回の記事で何かご意見等ございましたら、気軽にコメントしてください。

また、同シリーズの他記事もありますので、ぜひお読みください。

・ポジショナルプレーの戦い

・ポジショナルプレーの戦い③

・ポジショナルプレーの戦い④

・ポジショナルプレーの戦い⑤

・ポジショナルプレーの戦い⑥

最後までお読みいただきありがとうございました。

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