【ポジショナルプレーの戦い①】ポジショナルプレーとゾーンディフェンス
ペップ・バルセロナの登場によってサッカーはより速く、より組織的になりました。個人の才能が試合の勝敗を左右する度合いは小さくなり、個人の才能をいかにチームに還元できるかが勝敗を左右する時代です。
ペップ・バルセロナが行っていたポジショナルプレーがサッカー界に与えた影響は、マラドーナを止めるべくアリーゴ・サッキが開発したゾーンディフェンスに匹敵するほどの衝撃と言っても過言ではないでしょう。
ただ、ペップ・バルセロナが登場して10年以上経ちますが、「ポジショナルプレーとは何か?」という問いに、多くの方々がまだうまく答えることができません。
グアルディオラ自身はほとんどインタビューを受けませんし、バルセロナの関係者がポジショナルプレーのノウハウを外部に教えるようなことはしませんから、現時点では彼らのプレーを見ること、グアルディオラ等ポジショナルプレーの伝道師たちの数少ないインタビューからしか、ポジショナルプレーの謎を解明する努力を行うことしかできません。
今回は、シリーズ「ポジショナルプレーの戦い」と題して、「ポジショナルプレーとは何か?」、「近年のポジショナルプレー対策」に関してプレー分析とインタビュー等をもとにして考え、私なりの解釈を共有していきたいと思います。みなさんの解釈も教えていただけるとありがたいです。
では、「ポジショナルプレーの戦い①ポジショナルプレーとゾーンディフェンス」をお楽しみください。
ゾーンディフェンスとは?
まず、ゾーンディフェンスとは何かを説明させてください。私にとってポジショナルプレーとゾーンディフェンスは対をなす存在であり、ポジショナルプレーの説明において、ゾーンディフェンスの理解が不可欠と考えています。
アリーゴ・サッキがゾーンディフェンスを生み出してから、ゾーンディフェンスはほとんどのチームにおいて守備の基本戦術となりました。そんなサッカー界に登場したのがペップ・バルセロナであり、黄金期を迎えたことに異論はないでしょう。
ペップ・バルセロナは従来のゾーンディフェンスを破壊したと言っても過言ではないでしょうし、ゾーンディフェンスを理解すれば「ポジショナルプレーとは何か」を知ることができると思っています。なので、まずはゾーンディフェンスとは何かを説明するので少々お付き合いください。
ゾーンディフェンスの定義、前提、基準
まず私なりのゾーンディフェンスの定義を共有します。
ゾーンディフェンスは、いくつかの前提に基づき、いくつかの基準に従って、チームとして守備をする方法です。
ゾーンディフェンスの前提は、「11人ではピッチすべてを守れない」です。あの広いピッチを一度に守るためには30人くらい必要でしょう。11人ではまったく足りないです。
なので、相手チームにあの広大なピッチを自由に使わせることを11人でいかに防ぐかが、ゾーンディフェンスの肝です。広大なピッチで相手の自由を制限するために、以下の基準に従って各選手がポジショニングし、ボールの誘導と奪取を判断します。
- 1:ボールの位置
- 2:味方の位置
- 3:相手の位置
- 4:相手の状況(パスやドリブルができるか?味方の守備等によって苦しんでいるか?)
たまに聞く「相手をマークするのではなく、自分のゾーンをマークするのがゾーンディフェンス」という説明がありますが、「チームで守備をする」という最重要要素が抜けていると思います。
当然の話ですが、上記の基準1〜4は試合中に常に変わります。相手が違う場所にパスをすれば、1のボールの位置が変化します。それによって自分のポジショニングも変わります。
なのでゾーンディフェンスでは、試合中変化する自分の担当ゾーンをいかに正しく認識できるかが非常に重要です。正しい認識がなければ、ボール付近に大きな守備網を張ることができず、穴がある守備網になってしまいます。
もし上記基準に従って各選手がポジショニング、アクションを正しく行うことができれば、相手の自由を大きく制限できます。
近年のアトレティコマドリードは大いに参考になると思います。彼らは非常に高いレベルでゾーンディフェンスを実行しているチームであり、多数の強豪を苦しめてきたチームです。ゾーンディフェンスはどんなチームでも苦しめることができる素晴らしい守備方法なのです。
ここまで言葉で説明してきましたが、ゾーンディフェンスの説明は言葉だけでは難しいので、次はイラストや写真を使用して説明していきます。
※余談ですが、「日本人選手はゾーンの認識がうまくできない」という課題が以前から言われています。私もJリーグや高校生などの育成年代の試合をたまに見ますが、いまだにゾーンディフェンスをきっちりできていないチームばかりです。この「ゾーンディフェンスができない」という課題に関して、違うシリーズで記事にしていく予定なので、ご興味がある方はぜひご覧ください。
ゾーンディフェンスの例
ここではゾーンディフェンスをより理解してもらうために、イラストと実際のプレーの画像を使用しながら説明していきます。先ほど説明した4つの基準を確認しながら、いくつかの例を見ていきましょう。ただチーム戦術によって、多少イラストとプレー画像に違う点がありますので、その点についてはご了承ください。
1:SBがボールを持った場合
白フォーメーションは4-4-2です。ピンク5番SB(サイドバック)がボール保持している状況です。まず白が全体的に左サイドに寄っていることが確認できるでしょう。ゾーンディフェンスでは、このようにボールの位置に合わせてチーム全体が動くことで、相手が使用できるスペースをできるだけ小さくするようにします。
各選手のポジショニングは、一般的には以下のようになります。※上画像で白FW2人の位置は進化版ゾーンディフェンスの1つの形式ですので、今回は説明しません。
まず、右SH(サイドハーフ)が相手SBに対応します。その動きに応じて、MF陣とDF陣がそれぞれラインを作ります。MF陣に関しては、まず相手SBからの中央への縦パスを警戒して、CH(センターハーフ)は右SHに対して斜めのポジションを取ります。この斜めのポジショニングは、右SHが斜め方向へのドリブル突破を許した場合のカバーポジションにもなっています。
また、逆サイドのSHは少し高めのポジションを取り、CH等が空けたスペースをすぐカバーできる位置で、かつカウンター時にすぐに攻撃に出れる位置にポジショニングします。
DF陣に関しては、まず右SHが縦方向にドリブル突破された場合に対応するために、右SBは右SHの背後をカバーするポジショニングをします。この右SBのポジショニングに応じて、右CBは右SBの斜めのポジショニングをします。
これは、右SBが少し高めのポジションを取ることによってできた右SBの背後のスペースをカバーできるポジショニングです。左CBと左SBは右CBと同じラインにポジショニングします。これはオフサイドラインを高めに設定し、相手がプレーできるスペースをより限定するポジショニングです。
このようにポジショニングすることで、攻撃側はドリブル突破や縦パス、裏抜けなどのアクションを起こしづらくなり、攻撃を停滞させることができます。もし、無理やり縦パスを通そうとした場合は、四方八方からボール保持者を囲むことができるので、容易にボール奪取を行えます。もし逆サイドにボールがあっても、同じようにポジショニングし、同じようにボールを奪うことができます。
ただ、サイドでのゾーンディフェンスにおいては、必然的に逆サイドにスペースができることは覚えておいてください。
2:SHがボールを持った場合
左SBが対応している場面。素早い攻撃の場面なので、白選手が完璧にポジション取りできていませんが、上画像のようなポジショニング意識が必要です。詳しくは以下のイラストで説明します。
まず右SBがボールに対応します。右SBがドリブル突破されることに備えた斜め、場合によっては真横のポジショニングを右CBまたは右CHが行います。
もし右CBが行う場合には、両CBの距離がかなり離れるので、CHがその空いたスペースを埋めるポジショニングをします。残りのDF陣は、オフサイド等を警戒するため真横のポジショニングを行います。
また、右SHは右SBの真横のスペースをカバーするポジショニングを取り、真横にドリブル→シュートに対応できるようにします。左CHと左SHは右SHの横のスペースをそれぞれ埋めるポジショニングを行います。
もしDFとMFライン間にパス等で侵入された場合にも、このように集結しておけばすぐ囲い込み、ボール奪取を行えます。
3:CHがボールを持った場合
中央でCHがボール保持している状況。左CHがボールに対応し、その他が追従してポジショニングをする。イラストで確認しましょう。
中央にボールがある場合は、左右の斜め方向をSHとCHがカバーします。これはドリブル突破への対応でもあり、中央への縦パスを制限する対応でもあります。つまり、中央への侵入を制限し、サイドへ誘導する守備です。
またDF陣は縦パスと裏抜け両方に対応するため、一列になりMF陣に近いポジションを取ります。もし、縦パスやドリブル突破されてもすぐに囲い込むことができますし、裏抜けにはオフサイドトラップを駆使して対応できます。
ただ、中央でのゾーンディフェンスにおいては、両サイドにスペースができることは覚えておいてください。
ゾーンディフェンスまとめ
ここまで「ゾーンディフェンスとは何か?」を簡単に説明してきました。ボールの位置に基づき、どこに守備の網を張るのか、自分はどのゾーンを担当するべきかを正確に認識することがゾーンディフェンスには重要です。
ゾーンディフェンスは現代守備の基本であり、ほとんどのチームがゾーンディフェンスを採用しています。そんなゾーンディフェンスを破壊したポジショナルプレー。これまでの説明でゾーンディフェンスを理解したと思いますので、いよいよポジショナルプレーの説明をしていきたいと思います。
ポジショナルプレーとゾーンディフェンスの関係
これまで「ゾーンディフェンスとは何か」を説明してきました。ここでは、ゾーンディフェンスの理解をもとに、「ポジショナルプレーとは何か」についての私なりの解釈を説明していきます。
ペップ・バルセロナがポジショナルプレーを駆使してゾーンディフェンスを破壊したのは約10年前の話ですが、それは単なる偶然の産物ではなく、ポジショナルプレーがゾーンディフェンスの性質をうまく利用しているからです。
先ほど説明したように、ゾーンディフェンスは「ボールの位置」など4つの基準に従って、各選手がポジショニングし、ボールの誘導と奪取を判断しアクションを起こします。試合中に4つの基準は常に変わり続け、それに呼応するようにチーム全体が作り上げた守備の網が動き続けます。
この「4つの基準の変化に呼応して作り上げられる」というゾーンディフェンスの大原則を逆手に取り、自分達の優位性を最大限にするのがポジショナルプレーだと、私は解釈しています。より詳しく説明していきますね。
ペップによるポジショナルプレーの定義
2018年のあるインタビューでグアルディオラが、「ポジショナルプレーの定義」を述べていました。
この定義を聞いて何か思いませんか?そうです。ゾーンディフェンスと同じくポジショナルプレーも「ボールを基準に各選手がポジショニングをすること」が基礎になっているということです。
つまり、ポジショナルプレーとは、「ボールを基準に選手たちが正しいポジショニングをし、正しい順序でボールをつなぐことで得られる優位性を利用するプレースタイル」なのです。
ポジショナルプレーでは、「4つの基準の変化に呼応して作り上げられる」というゾーンディフェンスの大原則を逆手に取るように各選手がポジショニングすることが最重要要素です。逆手に取るポジショニングには2種類があります。
- 1:マークが曖昧になる
- 2:二者択一を迫る
より詳しく説明していきます。まず「1:マークが曖昧になる」について、ゾーンディフェンスでは必ず”ゾーンの隙間”と呼ばれるゾーンが及ばないスペースができます。以下のイラストが例です。
イラスト内の青丸がゾーンの隙間です。守備が及ばないスペースであり、ゾーンディフェンスの弱点の1つです。例えばSHとCHの間のポジションにおいては、もしボールがきた際にSHがあたりに行くのか、CHがあたりに行くのかが曖昧になります。
そして、「二者択一を迫る」について、以下2枚のイラストのように、中央を取ればサイドが空く、サイドを取れば中央が空くという守備者がどちらかを選ばなければいけない状況を作り出すポジショニングです。
イラストの通り、後方の青選手から縦パスを警戒したポジショニングを赤SHが取ればサイドが空き、青SHへのパスを赤SHが警戒してポジショニングすれば中央が空きます。どちらのポジショニングを行っても、前進するパスを許してしまい、ゴールに近づかれます。
すべての選手が上記のようなポジショニングを、ピッチの至る所で、どんな時も取ることで、ボールを安全かつ有効にゴールに近づけることができ、かつチーム全体で前進することができます。次に実際のプレー画像とイラストを見ながら、ポジショナルプレーの具体的な説明をしていきます。
ポジショナルプレーの例
ゾーンディフェンスを攻略するために、ポジショナルプレーではFWライン、MFライン、DFラインの3つの攻略を順番に行っていきます。
言うまでもなく、各ラインの攻略のためにボールの位置を基準に取られる上記2種類のポジショニングを活用していきます。1つずつ見ていきましょう。
1:FWラインの攻略
相手は4-4-2で守っています。それに対してバルセロナは以下画像のようにポジショニングを行っています。
相手は斜めのパス、縦パスを制限するように守備網を構築しています。バルセロナ選手が正しいポジショニングをすることによって、守備陣はこのように動くしかありません(4-4-2の場合)。次はイラストで見てみましょう。
バルセロナの選手がしっかりと2種類のポジショニングをしていることがわかります。このポジショニングのおかげで、相手守備陣は右サイドにコンパクトな陣形を整えることを強制されています。
また、多くの選手がフリーになれるポジショニングを行っているのがわかります。このようなプレーの結果、FWラインを突破することができます。続きを見ていきましょう。
一連のプレーによって、CBがFWラインのプレッシャーを受けずに、MFラインの前でフリーでボールを持つことができました。
このようにMFラインでフリーでボールを持たれると、守備側としては受け身で守備せざる負えません(SBやWG(ウイング)のポジショニングも絶妙)。
このような状況を作れたのは、各選手が2種類の正しいポジショニングすることで相手の守備を操作して、正しい順序でパスを回した結果であり、ポジショナルプレーが効果的に相手守備を攻撃している例と言えるでしょう。
また、ポジショナルプレーの重要な要素として、プレースピードがあります。プレースピードとは、状況認識からアクションを起こすまでの時間です。プレースピードが早ければ、相手に守備を修正する時間を与えずに、有効な攻撃を繰り出すことができます。
今回のプレーにおいても、バルセロナの選手が非常に速いプレースピードであるために、FW陣がCBにプレッシャーを与えるためにポジションを取り直す時間を与えていません。このようにポジショナルプレーでは、正しい思考と素早い思考の両方が必要になります。
2:MFラインの攻略
MFライン攻略に関しても、同じことを行います。プレーを見ていきましょう。
相手はサイドを警戒しています。ただ、縦パスに関しては警戒しきれていません。理由はボール保持者の横にポジションを取っているバルセロナMF2人です。
このポジショニングが原因で、MFラインのCHが縦パスを防ぐのか、もしくはMF2人へのパスを警戒するのかが曖昧になっています。
もし、MF2人どちらかにボールが渡れば、右サイドでフリーになっているメッシに展開される危険性があるからです。
この結果として、高い位置にポジショニングしているSBが前を向いてボールを持つことができました。プレーの続きを見ていきましょう。
一連のプレーで裏抜けを狙うまで成功しています。結果的にゴールにはなりませんでしたが、正しいポジショニングに基づくプレーで、ほとんど相手とフィジカル勝負がなくゴールに迫ることができています。これがポジショナルプレーの真髄ですね。
3:DFラインの攻略
ポジショナルプレーによってMFラインまで攻略できたのなら、チームは以下の大きな優位性を持てると考えています。
- 1:DFラインに対して前を向いてボールを持っている選手がいる。
- 2:チーム全体での前進なので、攻撃オプションが多彩。
まず1の「DFラインに対して前を向いてボールを持っている選手がいる」に関しては、ボール保持者が相手にとって危険なゾーンにいて、かつ正しい判断を下せる余裕を持っていると言うことです。
ゾーンディフェンスの説明でいった通り、守備の目的は「相手から自由を奪うこと」です。もし自由を奪えなければ、相手はやりたいように攻撃できるからです。ポジショナルプレーでは、自分達がやりたいように攻撃できる余裕をボール保持者が持つことができるのです。
2の「チーム全体での前進なので、攻撃オプションが多彩」に関しては、ポジショナルプレーは各選手が大きく離れることなくチーム全体としてゴールに近づきます。そのおかげで、DFライン攻略時にボール保持者がパスできる選手が相手ゴール前のいろんなところにいることができます。
これは、相手守備陣の「どこを優先的に守ればいいか?」という守備時の基本的思考を阻害することができ、結果として守備の穴を作ってしまう大きな原因になっています。
上記2つの優位性を利用して、ゴールを狙っていきます。例を見ていきましょう。
赤丸のメッシが裏抜けをしようとしている場面。横にイニエスタがいるためCBもメッシにそこまであたりにいけない(守備陣が全体的に対応が遅れているが)。
メッシはCBの動きを読み、裏抜けをやめ足元でボールを保持する。イニエスタはそのまま裏抜けをすることでDF陣に裏抜けの対応を強制する。その結果、左サイドで青丸ビジャがフリーになっています。
メッシはビジャにパスをし、ゴールチャンスを生み出しました。
MFライン攻略までで得た優位性を最大限利用した場面でしたね。最終的にはゴールにはなりませんでしたが、完璧な攻撃と言ってもいいでしょう。
ポジショナルプレーでは上記のような場面を作ることが可能になります。結果として、試合に勝つ確率が上がり、タイトル獲得に近づくことができます。
ポジショナルプレーまとめ
これまで「ポジショナルプレーとは何か?」について私なりの解釈を説明してきました。各選手が正しいタイミングに、正しいポジショニングをし、正しい順序でパスをすることで勝利を掴むことがポジショナルプレーです。
これは、現代守備の基礎であるゾーンディフェンスをしっかり理解していることが前提となります。ボールを基準にいくつかの法則に従って守備網が築かれるディフェンスの性質をうまく利用することで大きな優位性を獲得し、それをゴールへと繋げることができるためペップ・バルセロナは黄金期を築いたのでしょう。
今回の説明が、ポジショナルプレーの理解の手助けになれば幸いです。最後に、ポジショナルプレーの有用性について述べようと思います。
ポジショナルプレーの有用性
サッカーにおいて勝敗の大部分は、「いかに選手が才能を発揮できるか?」で占められます。なのでどのチームも、攻撃においては「味方選手に十分な時間とスペースを与えること」、守備においては「相手選手に十分な時間とスペースを与えないこと」が重要です。言い換えれば、サッカーとは時間とスペースをめぐる争いなのです。
ペップ・バルセロナがあれだけ勝てたのは、時間とスペースをめぐる争いに勝ち、メッシを含め多くの優秀な選手たちの才能を存分に発揮させることができる環境を整えたからです。
つまり、ポジショナルプレーは、時間とスペースをめぐる争いに対する非常に有効なプレースタイルなのです。最後に、「なぜ有効なプレースタイルなのか」を攻撃、守備の両面から見ていきます。
安全に、有益なフリーマンを作る
まず攻撃面に関しては、「安全に、有益なフリーマンを作る」です。先ほどのポジショナルプレーの説明においても、「ほとんど相手とフィジカル勝負がなくゴールに迫ることができています」と言いました。
元日本代表監督のハリルホジッチもデュエルの重要性を説いていた通り、サッカーにおいてはフィジカル勝負は非常に重要な要素の1つです。ただ、圧倒的フィジカル差がないかぎり、毎回勝負に勝てるわけではなく、常にボールを奪われる危険性があります。
ポジショナルプレーにおいては、その危険性をかなり下げることができます。なぜなら、ゾーンの隙間を利用したポジショニングと素早いパス回しを駆使することで、相手を競り合う場面が発生することが少なくなるからです。ゆえに、自軍の攻撃に”安全”をもたらすことができます。
ただ、安全を得たとしても、相手からゴールを奪えなければ勝てません。そのためには、相手にとって打撃を与える”有益なフリーマン”を作る必要があります。有益なフリーマンを作ることができると、相手は受け身にならざるおえず、守備網に穴が開きやすくなります。先ほど載せた画像がいい例ですね。
攻撃面におけるポジショナルプレーによって得られる大きな効果は、画像を見ていただければ明らかでしょうし、ペップ・バルセロナの成功や現マンチェスターシティの強さを見れば明らかでしょう。
ネガティブトラディションを制する
今度は守備面を見ていきましょう。守備面に関しては、「ネガティブトラディションを制する」です。現代サッカーにおいて、トラディション(攻守の切り替え)は最重要と言われており、トラディション時には多くのゴールが生まれます。
トラディションは、攻撃側からすれば最大のチャンスであり、守備側からすれば最大のピンチだといえます。言い換えれば、トラディションを制するものが、試合を制するのです。
ポジショナルプレーは、このトラディションをめぐる争いに有効なプレースタイルといえます。今回は守備面なので、ネガティブトラディション(攻撃→守備)について説明します。実際のプレーを見ながら説明していきます。
まずバルセロナが攻撃している場面です。中央に縦パスを通そうとしていますね。ここで注目して欲しいのは、「守備人数」と「各選手のポジショニング」です。「守備人数」に関しては、相手選手10人がゴール前に集まっており、そのうち9人がボール保持者より前に位置しています。
また、「各選手のポジショニング」に関して、DFライン上に6人おり、MFラインに3人、FWラインに1人であり、守備の重心がかなり後ろに下がっていることがわかります。
バルセロナの中盤選手のポジショニングも重要です。相手MFライン付近にパサーを含めて4人います。このポジショニングが、ネガティブトラディションを制するために大きな役割を担います。続きを見ていきましょう。
縦パスは相手に防がれてボールを奪われてしまいます。しかし問題ありません。
相手がボール保持しカウンターを狙いますが、相手が置かれている状況が最悪なのは一目瞭然ですね。効果的なカウンターを行うためには前線で起点になる選手が必要ですが、すべての選手がマークされています。結果としてFWにロングボールを蹴りますが・・・
前線の選手も2人でマーク済みです。
結果としてボールの回収に成功しました。そして重要なことは、ボールを奪われてから約5秒でボールを回収している点です。これはペップ・バルセロナで実践されていた有名な「5秒ルール」です。奪われてから5秒以内にボールを奪うことで、ポゼッションを回復し、場合によってはポジティブトラディション(守備→攻撃)を制してゴールを奪うことが大きな武器となっていました。他の場面でも同様です。
どの場面においても、ボールを基準に守備網が築かれていることがわかります。ポジショナルプレーは攻撃のみならず、守備に関しても当てはまるのです。
現代サッカーにおいて、「攻撃している時は守備を意識し、守備をしている時は攻撃を意識する」ことは当たり前となっています。これはひとえに、トラディションを制するためです。
ペップ・バルセロナが黄金期を迎えたのは必然でした。なぜなら、ポジショナルプレーはトラディションを制するためにも有効な手段だからです。
ポジショナルプレーの有用性 まとめ
ポジショナルプレーは、試合に勝利するための有効なプレースタイルです。ボールの位置を基準に取られる正しいポジショニングは、相手守備網を壊すものであり、同時に相手の攻撃の芽を一瞬で積むものでもあります。
今シーズン (2021〜22シーズン)ペップ率いるマンチェスターシティは、38試合で99得点26失点という驚異的な成績でプレミアリーグを制しています。これはポジショナルプレーが、攻撃においても、守備においても、非常に有益なことを示している結果でしょう。
これまでの説明で、いかにポジショナルプレーが有用なのかを知っていただければ幸いです。
まとめ:【ポジショナルプレーの戦い①】ポジショナルプレーとゾーンディフェンス
今回は、「ポジショナルプレーとは何か?」を私なりの解釈に基づいて説明していきました。今回の記事では、「正しいポジショニングをし、正しい順序でボールを回す」と言う感じで、ポジショナルプレーを概念的で抽象的に説明したので、「具体的にはどのようにしているのか」という説明はあまりしませんでした。なので今後、具体的なポジショナルプレーの運用方法を分析し記事にまとめていきたいと思います。
次の記事はシリーズ「ポジショナルプレーの戦い」として、バルセロナの栄光盛衰からみるポジショナルプレー対策に関するものです。ポジショナルプレーへの対策を行った4試合をピックアップして、ポジショナルプレー対策を説明していきます。
これらの記事を見ていただければ、より具体的なポジショナルプレーの運用方法を理解していただけると思っています。ぜひご覧ください。
今回の記事で何かご意見等ございましたら、気軽にコメントしてください。
また、同シリーズの他記事もありますので、ぜひお読みください。
・ポジショナルプレーの戦い②
・ポジショナルプレーの戦い③
・ポジショナルプレーの戦い④
・ポジショナルプレーの戦い⑤
・ポジショナルプレーの戦い⑥
最後までお読みいただきありがとうございました。
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