【ポジショナルプレーの戦い④】パーフェクトゲーム
前回の記事で紹介した 2011−12シーズンのレアルマドリード戦では、バルセロナは苦戦した末に敗北し、リーガのタイトルを逃しました。また同シーズンのCLチェルシー戦でも苦戦を強いられ、ベスト4で姿を消すことになりました。
ただ、試合内容としては「何もできなかった」訳ではなく、いくつか大きなチャンスを作り、また相手の攻撃をしっかりと止めていた印象でした。少ないチャンスを決められて負けたと言ってもいいでしょう。
今回分析したのは、2012−13シーズンのCLバイエルン戦です。2011−12シーズンのレアルマドリッド戦と違って、この試合でバルセロナは「何もできなかった」と言っても過言ではありません。
バルセロナが得た決定機はフリーキックからの1つのみ。ポゼッションからの決定機はなく、特に得意の中央からの攻撃は完全に防がれていました。
バルセロナを止める方法に関して、アンチェロッティ監督はインタビューでこのように答えています。「バルサに立ち向かうにはその走力で圧倒し、パワーと高さで勝り、本物のディフェンダーが数少ないがために時に露呈する守備の甘さを鋭く衝かなければならない。」
つまり高いインテンシティです。ただ、バルセロナもそれをわかっていますし、その守備を掻い潜っていくつもの勝利を重ねてきたのも事実。バルセロナに勝つためには、高いインテンシティを基礎にした効果的な戦術と90分間高い集中力を持続させ、中央封鎖を最優先に守ることが必要です。
今回のバイエルンは、バルセロナに勝つためにするべきことを完璧に実行しました。バイエルンの各選手が持つ高い個の力と素晴らしい戦略が合わさり、バルセロナに何もさせず、4−0の完勝劇を演じきりました。まさに「パーフェクトゲーム」と呼ぶにふさわしい試合。バイエルンがどのようにバルセロナを破壊したのか。ぜひご覧ください。
バイエルンの守備
今回のバイエルンの守備は、前回紹介したレアルマドリッド同様に、FWまで参加して中央を完全に封鎖する守備でした。ただ、レアルマドリッドよりも洗練されており、どの選手も90分間サボることなく、完璧に遂行しました。
バイエルン守備の大きな戦略は、「中央でフリーマンを作らせない」と「サイドは個々の能力で対応」です。「中央でフリーマンを作らせない」はレアルマドリードの守備も同様でしたね。
バイタルエリアでフリーマンを作り、その選手を中心にゴールに迫ることがバルセロナの攻撃です。特にメッシをフリーにさせれば死も同然なので、その点に関してはバイエルンも相当気を使っていました。
「サイドは個々の能力で対応」は、中央に人数を割く分サイドは必ず空きます。下位や中堅チームは中央封鎖をうまくできても、サイド攻撃にやられることが多々ありました。ただ、バイエルンは個の守備力が非常に高いので、その守備力を基礎にバルセロナのサイド攻撃に対応していました。
ここがパーフェクトゲームの大きな要因だと思います。中央封鎖もされて、サイド攻撃も防がれてしまった。バルセロナとしては手の打ちようがなかったと思いますね。では、バイエルンの守備の特徴を1つずつ説明していきます。
マンマーク+ゾーンのローテーション
バルセロナの中央攻撃を防ぐために、バイエルンが用意したのは「マンマーク+ゾーンのローテーション」を用いた守備です。レアルマドリードは、ケディラとアロンソがシャビとイニエスタをマンマーク気味に守備していましたね。
バイエルンはその守備をさらに進化させたものになってました。まず各チームのフォーメーションは以下のようになります。
青のバルセロナは4−3−3、赤バイエルンは4−4−2(4−2−3ー1かも)でした。バルセロナはゾーンの隙間を利用したパス回しで相手を動かしフリーマンを作り出します。
流動的に動き回るバルセロナの中盤の選手を自由にさせないように、バイエルンはFW2人、サイドの2人、CH(センターハーフ)2人の合計6人で中盤を守るという守備を行っていました。
また、純粋なゾーンでは守るのが難しいので、ケースバイケースのマンマークを採用しています。実際にプレーを見ていきましょう。
CB(センターバック)ピケがボールを保持しています。シャビにボールが渡ります。
FWのゴメスがあたりにいきます。その後ろでCHのシュバイニーが中央へのパスコースを防いでいます。
SB(サイドバック)のアウベスがボールを保持しています。SBにはあまり強くプレスしません。
CB間でパス交換。
イニエスタにパスが渡ります。マークしているのはCHのマルティネス。もう1人のCHシュバイニーは中央でゾーンを守ってます。
ブスケッツにボールが渡ります。FWゴメスがあたりにいきます。
ブスケッツが逃げます。FWゴメスもついていってますね。また先ほどイニエスタをマークしていたCHのマルティネスはイニエスタの中央移動についていってるのがわかります。
SBのアルバにボールが渡ります。
イニエスタにボールが渡ります。今回はFWのミュラーがプレスにいきます。またブスケッツのマークを引き続きFWゴメスがしていることがわかります。
シャビにボールが渡ります。CHのシュバイニーがあたりにいきます。ミュラーはそのままイニエスタをマークし続けてます。
シュバイニーのプレスをシャビが剥がします。先ほどまでイニエスタをマークしていたミュラが中央へのパスコースを切りながらシャビにプレス。剥がされたシュバイニーは中盤にすぐに戻ります。そして、CHのマルティネスは中央をゾーンで守ってますね。また、中央にいるブスケッツにはFWゴメスがマークし続けています。
SB経由でCBまでボールが下がりました。これまで見てきた通りに、バルセロナの選手は中盤でフリーマンを作れていませんね。シャビがシュバイニーを剥がした時も、ミュラーがしっかり中央へのパスコースを切り、中央でフリーになっていたイニエスタやメッシへパスできないようにしています。
今回のバイエルンは、このような守備を利用してボール保持者を自由にさせず、また周りへのパス、特に中央へのパスを防いでおり、また万が一抜かれた時に対応できるように中央をゾーンで守る選手を配置していました。次に、もし中央にスペースを開けてしまったらどうするかを見ていきましょう。
巧みなボール回しから中盤で数的優位を作ったバルセロナ。メッシが中盤でフリーになってます。結果的にファールでプレーが止まった場面ですが、フリーになっているメッシに対して、後ろにいるSBのアラバがプレスをかけようとしていますね。
サイドに大きなスペースを与える行為ですが、それを承知の上で中央封鎖を狙っているのがわかります。他の場面も見ていきましょう。
左側でFWミュラーがCBにプレスをかけにいった場面。ボールを深追いしすぎています。
バルセロナはミュラーがカバーできないスペースを利用します。シャビのボールが渡ります。メッシはミュラーが埋めるべきスペースにいますね。
メッシにボールが渡ります。メッシの後ろから猛ダッシュでプレスをかけにくるミュラーが見えますね。サッカーにはミスがつきものですが、それに対していかに対応するかが大事です。
この試合でバイエルンはいくつか守備のミスを犯しますが、このミュラーのプレーのように必死にカバーしようと動き回る選手たちが印象的でしたね。まさしくインテンシティの高い守備です。
サイドの選手も中央に絞る
FW2枚とCH2枚だけでは中央を守り切るのは難しいと判断したバイエルン。なので、SH(サイドハーフ)のロッベンとリベリ、特にメッシサイドにいるリベリが中央に絞る守備を実行していました。
7番リベリがセンターサークル付近まで絞っているのがわかります。他の場面も見ていきましょう。
中央にいるメッシのマークをしているリベリが確認できます。
以上すべての場面でリベリが中央に絞ってますね。中央を突破される危険性がある場合、リベリが中央に絞り、サイドへのパスに誘導しているのが印象的でした。
サイド攻撃は止められる自信があった裏返しでしょうか。事実、この試合でバルセロナのサイド攻撃が成功した場面は皆無でした。完璧に作戦成功。
サイドはがんばって対処する
サイド攻撃を防げる自信があったようなバイエルン。
CBピケからイニエスタにパスが通ります。
WG(ウイング)のサンチェスにボールが渡ります。SHのロッベンも下がってきて、3対2の数的優位を作ります。
3人で囲んで攻撃を防ぎました。単純にサイド展開されたら、通常のゾーンディフェンスのように潰します。サイドチェンジからバルセロナ優位の場面を見ていきましょう。
サイドが変わっての攻撃。CBバルトラからのパスが入る。
ペドロがワンタッチでSBのアウベスに展開する。サイドは数的同数であり、SBアラバの裏のスペースを取っているのでバルセロナの方が少し優勢。
猛然と追いかけるリベリ。
アウベスがキックフェイントをかけて抜こうとします。リベリの背後では、SBのアラバが中央へのパス警戒とリベリが抜かれた時のカバーどちらもできる位置にいます。
リベリがボールを弾き出して突破阻止。そして、すぐさまボールを回収しに行く。
アウベスがスライディングで対応し、バイエルンボールに。バイエルンはサイドの選手含め中央封鎖を最優先にしているので、今回のような場面は多々ありました。ですが、リベリやロッベンの驚異的な運動量と堅実な対応により、バルセロナのサイド攻撃はことごとく潰されていました。
逆サイドへの展開を遅らせる
先ほどのサイド攻撃に関連する内容です。バルセロナの攻撃を完全に止めるために、バイエルンは中央封鎖だけでなく、サイド攻撃もしっかり止めていました。このサイド攻撃を封じるために非常に効果的だったのは、「逆サイドへの展開を遅らせる」守備です。
ゾーンディフェンスでは、例えば左サイドで守備をするならチーム全体が左側に寄ります。つまり、その時は右サイドに大きなスペースを与えることになります。
バルセロナはそのゾーンディフェンスの性質を利用して、素早いサイドチェンジからサイド突破→中央折り返し→ゴールというお得意のパターンを持っています。例えばこの場面。
イニエスタが左サイドでボールを持っています。相手陣形が全体的に左サイドに寄ってるのがわかります。
メッシにボールが渡ります。
右サイドに上がってきたアウベスに展開。SBの対応が間に合ってないのがわかります。このアドバンテージを利用して、アウベスから高精度のクロスが供給されます。
ピンポイントクロスからシュートを演出しました。このようにシャビやイニエスタなど中盤の選手間で行う素早いサイドチェンジがバルセロナの大きな武器の1つでした。イラストでも確認しましょう。
左サイドでボールを持つと、相手守備陣も左サイドに寄ってきます。
もう1人の中盤の選手にボールを渡します。守備陣の移動よりボールの移動の方が圧倒的に速いので、守備陣形はまだ左寄りにいます。
サイドの選手に展開します。まだ守備陣形は左寄りにいます。このような状況ではサイドに数的不利に陥る可能性が高くなるので、守備陣にとってはとても不利な状況です。
バイエルンはこの「中盤の選手間で行う素早いサイドチェンジ」を防ぐことで、サイド攻撃を弱体化しました。弱体化する方法として行ったのが、「CBを必ず経由させるようにする」ことです。実際にプレーを見ていきましょう。
右サイドでWGペドロがボールを持っています。そこからシャビにパスが戻されます。
シャビにボールが渡った段階でFWミュラーが即プレス。バックパスを誘発させます。
CBバルトラにボールが渡りました。この場面注目なのが、FWゴメスがブスケッツをマークしていること。先ほどのシャビがボールを持った段階でブスケッツをマークしておき、CBしかパスするところがない状況にしています。
この後ブスケッツがマークされているので、CBピケを経由して逆サイドにいるCHのイニエスタに渡ります。
先ほどのような、イニエスタ→メッシ→アウベスのような高い位置でのサイドチェンジをさせないようにし、今回はペドロ→シャビ→CBバルトラ→CBピケ→イニエスタのような低い位置を経由したサイドチェンジを強制しています。
そうすることでバルセロナに素早いサイドチェンジをさせず、チーム全体が逆サイドに移動する時間を稼いでいます。左サイドから右サイドへのサイドチェンジも見ていきましょう。
イニエスタが左サイドでボール保持しています。ここでもFWゴメスがブスケッツをマークしていますね。CBにしかパスを出せない状況です。
それを察知したブスケッツは少し低い位置に降りてパスを受けます。ただ、前方へのパスコースは見当たりませんので、CBバルトラにボールが回ります。
CBバルトラはバイエルン守備陣の逆サイドへの移動が少しでも間に合わないようにダイレクトで前線にパス。
逆サイドへの素早い展開が成功しましたが、CBを経由した分リベリが対応できる範囲に収まっています。なので、しっかりとサイド攻撃を防ぐことができました。
先ほどのブスケッツやバルトラの動きのように、バルセロナも少しでも素早くサイドチェンジをしようとしていましたが、必ずCBを経由するためサイドチェンジの時間が遅くなっていました。
このアドバンテージとサイドの選手の高いインテンシティを利用して、完全にサイド攻撃も止めていたパーフェクトなバイエルンでした。最後にイラストでも確認しておきましょう。
無駄なパスを徹底的に排除したいバルセロナに対して、無駄なパスを強制させ効果的なサイド攻撃ができない状況をバイエルンが作り出していることがわかっていただけたでしょう。
このような守備を通してバルセロナの攻撃を完全に機能不全に陥らせ、試合結果4−0の完勝劇を演じました。次は、このようなバイエルンの守備に対してバルセロナがどのように抵抗したのかを見ていきましょう。
バルセロナの攻撃
これまで説明してきたバイエルンの守備が原因で、バルセロナは思ったように攻撃できませんでした。そんな中で狙い目としては、トラディション時やバイエルンのミスをつく攻撃、中央に比べて守備力が弱いサイド攻撃です。
ただ、どの攻撃もバイエルンの高いインテンシティの前に防がれていたことはいうまでもありません。1つずつ見ていきましょう。
前半:トラディション時
現代サッカーで最も重視されるトラディション。どんなチームもトラディション時はセットされた守備よりも弱くなります。そこを狙って攻撃するのは、どんなチームにとっても当然と言えるでしょう。
特に今回のバイエルンのように、セット時の守備が強い場合は、守備陣形が整っていないトラディション時を狙うことは定石であり、今回のバルセロナも狙っていた感はあります。
ただそこまで回数が多くなかったので、やはりポゼッション重視の面が全面に押し出されていた試合でもありました。トラディション時の攻撃を見ていきましょう。
バイエルンのカウンターを止めたシーン。ブスケッツがフリーでボール保持。バイエルンの4選手が前線にいるのが確認できます。
ブスケッツから前線にいたメッシにパスが通ります。MFラインを完全に突破しており、メッシを含め3選手がカウンターを仕掛けています。バイエルンとしてはかなり危険な状態ですが、冷静に対応します。
まず、後ろからリベリが猛ダッシュで帰還しようとしています。またDFラインもメッシにあたりに行かず、DFラインを下げていっています。MF陣の帰還のための時間を稼いでいます。続きを見ていきましょう。
SBアラバが中央に寄り、WGペドロへのパスコースを空けています。やはりメッシの中央突破を警戒しているのでしょう。リベリも戻ってきていますね。
メッシが左斜めに方向転換。WGサンチェスはCBダンテの裏を狙う動きを見せます。ただ、リベリとCHシュバイニーが完全に帰還し、メッシにプレスをかけられる状態ですね。
サンチェスが止まってメッシとのワンツーに備えます。メッシはCBダンテ、リベリ、シュバイニーの3人に囲まれていますね。
メッシはサンチェスへパスを出しますが、それを読んだダンテがパスカット。この場面、バイエルンの選手は8人が自陣にいますね。インテンシティの高さが見受けられる場面です。
やはりこの頃のバルセロナはポゼッション重視なので、カウンターに人数を割くことはなく、3人での攻撃で終わってしまっています。まあ、メッシがいるので大抵のチーム相手なら点は取れるんですけど、バイエルン相手だとそうはいきませんでした。
前半:バイエルンのミスをつく攻撃
どんなに優れたチームも90分間ミスなしでプレーできません。今回のバイエルンもしかり。ただ、大事なのはそのミスをいかにすぐ埋めるかです。
守備時のミスを、ミスをした選手もしくは他の選手がしっかりと素早く埋めることができるかが、インテンシティの高さにとって重要です。バイエルンはその点に関しても素晴らしかったので、バルセロナの攻撃はほとんど止められていました。
この場面では、中盤でブスケッツがフリーになってます。マークし忘れです。ただ、マーク担当だったFWゴメスが急いでマークしにいってるのがわかります。
しっかりとプレスを行い、SBにバックパスさせました。
次の場面では、FWミュラーがCBバルトラまでプレスに行ってしまい、他の選手たちと距離が離れてしまいます。ミュラーが離れたことを利用して、バルセロナが攻撃を仕掛けます。
本来ミュラーが埋めるべきスペースでメッシがフリーでボールを持ちます。しかし、それを察知してミュラーが全力で戻ってきます。
ミュラーが戻ってきたのでメッシもドリブルを止めます。以上2つの場面と同様に、ミスをした場合は、しっかりと素早く穴埋めを行っていました。なので、バルセロナのミスをついた攻撃もうまくいきませんでした。
前半:サイド攻撃
SHとSBといったサイドの選手も中央封鎖を優先しているので、必然的にサイドの守備は弱くなります。バルセロナはそこを狙って攻撃する場面もありました。
ただ、攻撃の精度はあまり高くなく、パスミスやバイエルンの守備にことごとくハマって、うまく攻撃できていなかった印象です。例を見ていきましょう。
WGペドロが降りてきてボールを受けます。ペドロに対して、SBのアラバがプレスにいっています。つまり、SBのアラバの裏のスペースが空いているので、アウベスがそこに走り出そうとしています。
ペドロはブスケッツにパスし、ブスケッツはダイレクトで裏のスペースを狙います。アウベスが走り出しています。ただ、リベリもそれに対応しようとしています。
ただ、パスの精度が悪く、タッチラインを割ります。いくつか同じような場面がありましたが、パスの精度が悪く同じような結果になっていました。残念ながらブスケッツやCBはロングキックの精度があまり良くないので。
後半:ポゼッション攻撃
前半まったくうまくいかなかったポゼッション攻撃に修正を加えたバルセロナ。WGを中央でプレーさせ、SBのポジションをあげました。
バイエルンのSBはWGのマークを、SHはSBのマークをしているので、このようにポジション取りをされるとサイドの選手のマークをどのようにするかが曖昧になります。実際にプレーを見ていきましょう。
イニエスタが中央でボール保持。SHのロッベンがSBアルバの高いポジショニングに合わせて低い位置にポジショニングしているのがわかりますね。
WGのサンチェスが中央でボールを受けます。それに対して、SBのラームがプレスにいきます。SHロッベンはDFラインと同じ高さにいますね。
イニエスタにパスが戻されます。左サイドで3対3の状況です。イラストでも確認しましょう。
バルセロナが流動的に動く分バイエルンも流動的にポジションを取るので、このイラスト通りではないですが、前半同様このようなマンマーク気味のディフェンスを取ります。ただ、今回バイエルンにとって危険なのが、ボール保持者がドリブルが非常に強力で賢いイニエスタだということです。続きを見ていきましょう。
イニエスタがドリブルを仕掛け、ミュラーを抜きます。ただ、ミュラーもしっかりと追いかけていますね。イニエスタのドリブル対応のために、SBのラームもイニエスタに対応します。なので、WGサンチェスがフリーになります。
イニエスタがフリーになったサンチェスとワンツーを行い、裏に抜け出してチャンスを作ります。ただ、バイエルンのラインコントロールでオフサイドになります。ここら辺の守備対応も非常に機能していましたね。違うプレーも見ていきましょう。
シャビがボールを保持しています。メッシが下がってボールを受けようとしています。それに対して、SBのアラバがマークにいっています。バルセロナSBのアウベスが高いポジショニングを取り、それにはリベリがマークしているのが確認できます。
アウベスが抜け出す動きを見せます。シャビもそれに合わせて裏へパス。
CBダンテが対応しますが、ギリギリアウベスにパスが通り、中央へ折り返します。ただ、中央にいるのはペドロのみで、ペドロはCBボアテングにマークされています。
折り返しはGKノイアーがキャッチ。シュートまで行けませんでした。
後半はサイド攻撃を中心にチャンスを狙っていたバルセロナ。ただ、バイエルンもギリギリのところで止めたりして、集中力を切らさず対応していました。
また、サイドに集中すると中央が空きがちになることがよくありますが、バイエルンの守備陣はそのようなことは起こさず、前半同様非常に硬い中央封鎖を行っていましたね。
結局、前後半ともにバイエルン守備陣にダメージを与えることができず、逆に弱みと隙をつかれて4失点。バルセロナにとって悪夢のような夜になりました。最後にバイエルンの得点シーンを2つ見ていきましょう。
1点目
バルセロナの弱点「高さ」をついたシーン。2点目も同じように奪いました。
右サイドからのクロス。
中にいるCBダンテがアウベスに競り勝つ。
高さで圧倒しています。
競り勝ったダンテは逆サイドにパス。逆サイドでミュラーがフリーになってます。
ミュラーが押し込み、得点を奪いました。アンチェロッティが言っていたとおり、高さで上回った攻撃でした。
4点目
4点目はバルセロナのインテンシティの低さを狙った攻撃でした。ペップバルセロナ以降、徐々にインテンシティが低くなっていきました。簡単にゴール前に迫られることが多くなっていましたね。
そのインテンシティの低さが露呈したのが4点目。SBアウベスが負傷で一時ピッチ外に出ていた時の得点ですが、バルセロナのインテンシティの低さが見受けられるプレーでした。
CBダンテから縦パスが入る場面。前線に4人の選手がいますが、中盤にいるバルセロナの選手はイニエスタのみです。フォーメーションで見ると4−1−4のような中盤がガラ空きな守備になってしまっています。また、前線のプレスも十分当たれていません。そこをバイエルンにつかれます。
リベリが中央でフリーでボールを受けます。中盤がスカスカなので誰も当たれていませんね。
ドリブルを開始します。まだ誰も当たっていません。サイドが数的不利なのでイニエスタも当たるべきですが、当たりにいきません。中盤を空けるのを怖がったのかもしれません。
ここでCBバルトラが当たりにいきます。ここで重要なのが、奥にいるSBアラバのオーバーラップにWGペドロがついていっていない点です。1人少ない状況にもかかわらずこのような行動は、インテンシティが非常に低いと言わざる負えません。
CBバルトラを引き出したタイミングでサイドにパス。CBピケが左サイドに寄ってバルトラの穴を埋めています。
先ほどからオーバーラップしているSBアラバが攻撃に加わり、サイドで数的優位。まだWGペドロは戻れていません。またバルトラとイニエスタも下がりきれておらず、DFラインはCBピケとSBアラバのみ。
オーバーラップしてきたSBアラバにパスが出て、サイドを突破します。イニエスタとCBバルトラどちらもDFラインまで戻れていませんので、渋々CBピケが当たりにいきます。
ただ、そうすると、FWミュラーが空きます。逆サイドのSBアラバもカバーに間に合っていません(これは仕方がない部分が大きいですが)。
FWミュラーにパスが通りゴールを決められます。弱い前線からのプレス、マークとカバーの意識の低さが原因となった得点シーン。このようなインテンシティの低さは、この試合で何度も見られた場面です。負けるべくして負けたバルセロナでした。
試合統括
終始圧倒的だったバイエルン。すべての面においてバイエルンが上回り、もっと点差が広がってもおかしくない試合でしたね。ブンデスリーガならではのフィジカルを基礎とした巧みな戦略と各選手の判断力の高さ、そして非常に高いインテンシティ。間違いなく歴代最強の1つに数えられるチームです。
同じように2020−21シーズンのCLでバイエルンはバルセロナを8−2でボコっています。原因は同じくインテンシティの差。バイエルンの選手が試合後に言っていたように、バルセロナは現代サッカーに必要なインテンシティを備えていませんでした。
その弱点はこの試合ですでに証明されていました。そこを改善せず、メッシの能力に頼ってきたバルセロナですが、メッシは退団しました。現監督のシャビを中心に立て直しをはかっているバルセロナ。現代サッカーに順応したポジショナルプレーを見せてくれるのか期待しています。
最後に:【ポジショナルプレーの戦い④】パーフェクトゲーム
今回は2012−13のCLバイエルン戦を通じて、ポジショナルプレーがいかに破壊され、バルセロナがどのように機能不全に陥ったかを説明しました。
ゾーンの隙間を利用したポジショニングを駆使して勝利を掴み取るポジショナルプレーをマンマーク+ゾーン、そして個人の守備力の高さを駆使して完膚なきまで破壊したバイエルン。
ただ、今回バイエルンが使用した戦略、戦術はバイエルンのような個人能力が非常に高い選手が集まったチームだからこそできたことです。下位や中堅チームでは、メッシやイニエスタをメインにバルセロナの高い個人能力にやられます。
なので、2012−13のリーガエスパニョーラはバルセロナが勝ち取りました。レアルマドリードには苦戦していましたが、その他チームには勝てていましたね。
しかし、そんなバルセロナを非常にインテンシティの高いゾーンディフェンスを駆使して破った中堅チームがあります。それは、シメオネ率いるアトレティコマドリードです。
バイエルンと違い、純粋なゾーンディフェンスを駆使してバルセロナと戦い、最後には2013−14のリーガエスパニョーラを優勝しました。次回は2013ー14のアトレティコマドリード戦をご紹介したいと思います。
今回の記事で何かご意見等ございましたら、気軽にコメントしてください。
また、同シリーズの他記事もありますので、ぜひお読みください。
・ポジショナルプレーの戦い①
・ポジショナルプレーの戦い②
・ポジショナルプレーの戦い③
・ポジショナルプレーの戦い⑤
・ポジショナルプレーの戦い⑥
最後までお読みいただきありがとうございました。
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