【ポジショナルプレーの戦い⑥】選手の才能をどう活かすか

サッカー分析

【ポジショナルプレーの戦い⑥】選手の才能をどう活かすか

これまで「ポジショナルプレーとは何か?」を少しでも理解するために、実際の試合を分析しバルセロナと対戦チームのプレーからポジショナルプレーの理解に取り組みました。

まだまだポジショナルプレーを完全に理解しているとはいえないですが、複数の試合を通じてポジショナルプレーを用いるバルセロナがどのようにプレーしようとしているのか、そしてそのバルセロナのポジショナルプレーを止めるために対戦チームがどのような守備を行ったのかを理解することができ、「ポジショナルプレーとは何か?」について完全な理解に近づけたと思います。

 その理解をもとに、今回は2014年以降のポジショナルプレーを見ていきたいと思います。今回の記事でお伝えしたいことは、「ポジショナルプレーは柔軟」ということです。2014−15にはバルセロナが3冠達成し、マンチェスターシティは世界一熾烈なプレミアリーグで99得点26失点という驚異的な成績で2020−21シーズンのチャンピオンとなりました。

言うまでもなく、彼らはポジショナルプレーを使用していました。ポジショナルプレーは、サッカーにおける1つの答えであり、長年研究され対策されても止められるものではないのです。止められない理由は一つ。選手の才能を効果的に発揮させることができるから。ゆっくり説明していきますね。

選手から戦術が生まれる

サッカーにおいてよく話されることは、「この戦術がいい」や「この戦術は良くない」などの戦術論です。ただ多くの場合、選手の存在が無視されます。チームにどのような選手がいるかを前提に話すのではなく、どのような戦術が良くて、その戦術に対して選手がどうすればいいかが語られます。

 しかし、そのような戦術論はサッカーの本質から外れるものだと思います。なぜなら、サッカーで点を取れるのは選手だけであり、ゴールを守れるのも選手だけだからです。

試合が始まれば監督やコーチはボールに一切触れることができず、すべては選手に託されます。言い換えれば、サッカーにおいて勝つか負けるかは、チームにいる選手が「何ができるか?」にかかっているのです。

 なので、まず私たちが考慮しなくてはいけないことが、各選手が「何ができるか」です。どのようなプレーが得意で、どのようなプレーが苦手か。

そして最も大事なのは、得意なところ同士の組み合わせ、得意不得意の相互補完を見つけることで、それが戦術へと昇華すると言う事実です。

 これはペップバルセロナでも同じです。ブスケッツは味方を相手のプレスから解放する才能があり、シャビは味方にスペースを与える才能、イニエスタはオールマイティな才能、そしてメッシの未来を読む力と圧倒的な個人技。あとはこれらを組み合わせるだけ。

ブスケッツがシャビをプレスから解放する。プレスから逃れたシャビが自由にスペースを作る。空いた左サイドのスペースでイニエスタが攻撃を始める。最後に左サイドに気を取られた相手の隙をつき、絶好のタイミングでメッシが右サイドでボールをもち、圧倒的な個人技でゴールをこじ開ける。ペップバルセロナでいつも見られたシーンです。

 守備でも同じです。ピケはカバーリングが非常に上手い選手です。そしてその相方を務めたのはマスチェラーノ。マスチェラーノは前にいる選手へのアタックが非常に上手い選手です。

バルセロナの高い位置でのプレスを成功させるために、カウンター時の縦パスをまずマスチェラーノが狩りにいく。前に出たマスチェラーノが空けたスペースを相手が狙うので、そのスペースのカバーをピケが行う。2人の得意なところを両方出させ、弱みを出させない仕様になっていました。

 このように戦術とは選手の得意不得意の組み合わせであり、相互補完なのです。ペップが師として仰ぐリージョ氏も「戦術とは選手同士のコラボレーション」と言っており、選手を考慮しない戦術は戦術ではないと言い切っています。

「すべては選手から始まる」というサッカーの本質を忘れてはなりません。そして今回伝えたいことの「ポジショナルプレーは柔軟」とはまさにこの本質に関係することです。

ポジショナルプレーは柔軟

 ペップバルセロナでは中央突破が得意でした。これは前回や前々回の記事で紹介したアトレティコマドリードやバイエルン戦で見られたバルセロナの傾向です。

メッシを中心に中央突破を狙っているのが見て取れ、逆にサイド攻撃は弱みでした。そして中央封鎖を徹底的に行った両チームを前に非常に苦戦し、バイエルン相手には4−0で完敗しました。

 しかし、そのような試合があったにもかかわらずポジショナルプレーは現在でも大きな威力を発揮しています。2014−15シーズンのバルセロナの三冠や、2020−21シーズンのマンチェスターシティのプレミアリーグ優勝(2連覇)です。なぜあれほどの対策を打たれても結果を残し続けるのか?

 それは「ポジショナルプレーが非常に柔軟」だからです。ポジショナルプレーにおいてペップバルセロナに見られた中央突破が必要ということはありません。

ポジショナルプレーはもっと柔軟なものであり、チームにいる選手の特徴に合わせることができるものだからです。先ほど申し上げた通り、ペップバルセロナではメッシやシャビがいたから中方突破を狙っていただけです。

一方、ペップが率いたバイエルンやマンチェスターシティでは、バルセロナで見ることがなかったサイド攻撃がよく見られます。なぜなら、バイエルンにはロッベンやリベリ、マンチェスターシティにはスターリングやマフレズといった優れたWGがいたからです。

この2チームでは、サイド攻撃がメインであり中央突破はサブなのです。ポジショナルプレーが非常に柔軟なことが各チームの例を見ればわかりますね。

 では、なぜ柔軟に変化させることができるのか?理由は、ポジショナルプレーはサッカーの弱点をつくことができるプレースタイルだからです。これまでの試合分析でよく言っていましたが、「以前のバルセロナを相手にする際は、基本的にサイドを捨てる」という言葉がありました。

ゾーンディフェンスの説明で言いましたが、あの広いピッチを11人で守ることは不可能なのです。どこかを守れば、どこかが空きます。中央を封鎖されて苦戦していたバルセロナは、空いているサイドで攻撃を仕掛けようとしていましたね。

ポジショナルプレーはピッチ上で各選手が常に適度に離れてポジショニングし、ピッチを広く使い、必ずどこかに現れる穴に選手をポジショニングさせることができます。

相手守備に穴をあけ、その穴を自チームにいる優れた選手に使わせること。そうすることで相手に大きなダメージを与えることができ、試合に勝利することできるのです。

 これがポジショナルプレーが柔軟である理由であり、今だに優れたプレースタイルの1つである理由です。

次は3チームのプレーを実際に分析し、ポジショナルプレーの柔軟性を確認していきましょう。

各チームのポジショナルプレー

2014−15シーズン以降の3チームのポジショナルプレーの例を見ていきましょう。今回紹介するのは、バルセロナ、バイエルンミュンヘン、マンチェスターシティです。

どのチームもポジショナルプレーを活用した非常に強力なチームです。ペップバルセロナとは違う特徴を持つチームであり、違った形でポジショナルプレーを展開しています。それでは見ていきましょう。

バルセロナ

まずは2014−15シーズンのバルセロナを見ていきましょう。このバルセロナはリーガエスパニョーラ、コパデルレイ、CLをすべて勝ち取り、3冠を達成した歴史上でも非常に優れたチームでした。

このチームで躍動したのが、メッシ、ネイマール、スアレスのMSNです。各選手が非常に高いスキルを持ちながらも、非常に強力な連携を行うことで、欧州全体を恐怖に陥れました。彼らがどのように強力だったのか見ていきましょう。

メッシ以外の武器を手に入れる

2013−14までのバルセロナにおいて、最大の武器であり弱点であったのがメッシでした。圧倒的な個人能力で敵を薙ぎ倒すことができるメッシ。ほとんどの相手に対して、いくら対策をしてこようが個人技で破壊することができました。

しかし、以前の記事で紹介したようにバイエルンやアトレティコマドリード相手にはそういきませんでした。メッシを封じられると何もできなくなるバルセロナが世間に知れ渡る試合となりました。

 そんな中、手に入れたのがネイマールとスアレス。ネイマールは2013−14シーズンに獲得しましたがバルセロナにまだまだ馴染めない状態でした。スアレスは2014−15シーズンに獲得しましたが、諸問題がありシーズン後半からのスタートとなりました。

しかし、この2人はバルセロナに足りない武器、ネイマールは左サイドからの攻撃、スアレスは純粋なFWとしての働きをバルセロナにもたらしました。

 まずはネイマール。2014−15のアトレティコ戦のプレーを見ていきましょう。

メッシ以外の武器を手に入れる

アトレティコのスローインの場面。バルセロナの選手が囲い込み、ボールを奪取します。

メッシ以外の武器を手に入れる

ボール奪取後、前線にいるネイマールにつなげ、カウンターに繋げます。この頃のバルセロナはカウンターが大きな脅威でした。

メッシ以外の武器を手に入れる

ネイマールがボール保持。サイドで1対1の状況です。ドリブルを開始します。

メッシ以外の武器を手に入れる

SB(サイドバック)がネイマールを止めることができず、ゴール前へと前進を許しています。そして、まだ止めることができていません。

メッシ以外の武器を手に入れる

CH(センターハーフ)が下がって対応しますが、それをもかわしてドリブルを継続。アトレティコの守備陣すべてを1人で引き付けています。

メッシ以外の武器を手に入れる

守備陣を引き付けた後に逆サイドのメッシへパス。メッシは1対1の状況。アトレティコにとっては非常に危険な状況です。

メッシ以外の武器を手に入れる

メッシが1対1を制してシュート。

メッシ以外の武器を手に入れる

シュートは惜しくも外れました。しかし、ネイマール1人でアトレティコを恐怖に陥れました。非常に強力な個人能力ですね。

 続いてスアレス。これはレアルマドリード戦での1プレーです。

メッシ以外の武器を手に入れる

SBアウベスがボールを保持しています。いつものバルセロナなら前線にボールを預けられないのでバックパスを選択するところですが、今回は生粋のFWスアレスがいます。

メッシ以外の武器を手に入れる

そのスアレスに対してロングボールを蹴ります。しかし、相手はラモスとぺぺという世界最高級のCB(センターバック)コンビ。

メッシ以外の武器を手に入れる

そのCBコンビ相手に、とてつもなくすごいトラップを披露し、ゴール前で有利な状況を作り出します。みなさんぜひ動画で見てみてください。

メッシ以外の武器を手に入れる

そしてそのトラップからGKカシージャスの完全に裏をつく完璧なシュート。

メッシ以外の武器を手に入れる

 完璧な動き出しから、完璧なトラップ、完璧なシュート。ゴールを奪うためのスキルを完璧に備えたFWですね。以上2つの武器を得たバルセロナが、どのようにポジショナルプレーを展開したかをみていきましょう。

例1

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カウンター返しの場面。左サイドでネイマールがボールを持っています。ネイマールの横にはメッシがいますが、CH(センターハーフ)とSH(サイドハーフ)の2人でマークしています。

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FWスアレスがCBの死角にまわり、バイタルエリアに降りてきます。それに合わせてネイマールがスアレスにパスしワンツーを狙います。また、メッシに釣られてMFラインの選手はスアレスやネイマールに十分プレッシャーを与えられない状況です。

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スアレスからネイマールにボールが渡ります。少しボールがズレますが、ギリギリボールをキープします。

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ネイマール+スアレスの攻撃で、アトレティコ守備陣が完全に中央に引き付けられ、サイドが空いています。それを利用し、フリーになったSBアルバがシュート。

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惜しくもシュートは止められましたが、メッシ抜きで大きなチャンスを作った場面であり、ネイマールとスアレスの強みが出ていた場面でしたね。

例2

続いてはメッシ起点の攻撃。このシーズンにメッシは右サイドに移動し、中央はスアレスに任せていました。なので、ネイマールによって左サイドが強化されると同時に、中央はスアレス、右サイドはメッシという、ピッチ上すべてにおいて武器のあるチームでした。例2はメッシ起点の右サイド攻撃を見ていきます。

例2

SBアウベスがボールを保持しています。画像には映ってませんが、メッシが右サイドライン際の高い位置でポジショニングしています。左サイドからのサイドチェンジの流れで、右サイドにはスペースが存在する場面。このゾーンの隙間を利用して攻撃を展開します。

例2

アウベスからメッシへ。メッシに対してSHとSBが対応します。

例2

メッシからCHラキティッチへパスが渡ります。メッシがSHとSBを引き付けた状態から、CHラキティッチがSBの裏のスペースに走り込みます。それに対して、アトレティコはCBが対応します。

例2

ラキティッチがサイドでボールキープし、SHとCBを引き付けています。ただ、アトレティコも守備が固いので、SBが本来のCBの位置でポジショニングしスペースをカバーしています。

一方で、メッシは相手SHがいなくなったスペースでボールを受けようとします。ゾーンの隙間ですね。

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メッシに対してCHが対応。ここでSBアウベスがCHとFWの間にあるゾーンの隙間に移動します。

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FWが遅れて対応しています。それを見てCHが対応しようとしています。またサイドでのボール回しでCBも釣り出されているアトレティコは守備網を再構築しようとしています。そこをついてメッシが裏へ走り出します。

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アウベスの絶妙なパスでメッシがCBの前でフリーでボールを受けます。しかし、アトレティコもすぐに対応してきます。

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CBを含め3人がメッシに対応しています。サイドに追いやりボール奪取を試みています。3人で対応している分、中央でスアレスとネイマールをSBが1人でみる不利な状況ですが、中央にパスを通すのは至難の業。

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しかし、3人のプレッシャーを受けながらメッシが中央へのパスを通します。どうやったのか不明です。中央へパスが来ると思っていなかったアトレティコは完全に後手に回ってます。SBがスアレスにすぐに対応しますが、スアレスのトラップミスが運よくネイマールに渡ります。

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ネイマールが完全にフリーでシュート。

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体勢が悪かったですがゴールを奪いました。

 中央ではなく、右サイドから完全にアトレティコを崩し、これまでのバルセロナでは難しかったプレーでゴールを奪いました。以上のように、どこからでも強力な攻撃が展開できたバルセロナは、必然のように3冠を達成しました。

バイエルンミュンヘン

バルセロナを去ったペップは、ブンデスリーガの強豪バイエルンミュンヘンに行きました。ドイツはスペインと違い非常にフィジカル重視の国で有名です。そんな国においてポジショナルプレーを実践できるのか、ペップの大きな挑戦でした。

3シーズン過ごしましたが、非常に強力なチームを作り出しましたね。惜しくもCLは取れませんでしたが、3年連続ベスト4進出し、国内リーグでは無双状態。そんなチームのポジショナルプレーを、同じくドイツの強豪ドルトムントとの試合を通じて見ていきましょう。

例1

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FWラインの守備を突破し、SBアラバがボールを持ちます。アラバに対してはSHが対応しようとしています。中央ではCHチアゴがゾーンの隙間にポジショニングしており、ドルトムントはチアゴへの縦パス警戒しています。

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チアゴへの縦パスを警戒したために、SHとSB間のゾーンの隙間でリベリがボールを受けます。チアゴの先ほどのポジショニングにより、CBとSBが引き付けられているので、SBによるリベリへの対応が遅れます。

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遅れて対応したSBの裏のスペースをチアゴが狙い、左サイド深くでボールを保持します。

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上がってきたリベリにボールを渡します。リベリはドリブル能力が非常に高いWGであり、この状況ではSHと1対1になっていますね。ドルトムント守備陣も急いで対応しようとします。

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リベリがカットインからチャンスを探りますが、CHもサポートにまわり防ぎます。しかし、左サイドに寄ったドルトムント守備によって空いた右サイド、つまりゾーンの隙間でもう1人のWGコスタがポジショニングしています。

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リベリからコスタへボールが渡ります。コスタもリベリ同様非常にドリブル能力が高いWGであり、この場面ではSBと1対1の状況なのでドルトムントとしては非常に不利な状況です。なので、SHがダッシュでサポートに行っています。

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コスタが縦への突破と見せかけてカットイン。SBもSHも剥がされます。そしてゴール前では4人の選手がゴールを狙える位置にいます。

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コスタから鋭いクロスが供給されますが、ドルトムントがギリギリ弾き返します。バイエルンの1番の武器であるウイングによるサイド攻撃が牙を剥いた場面でした。

 以上のように、バイエルンではバルセロナとは違い、ウイングの突破力を生かしたサイド攻撃を武器に戦っていました。次の2つのプレーも同様です。

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次の例もWGの力を利用した場面です。

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SBアラバがボールを持っています。先ほど同様リベリにパスを出します。

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リベリがボールを持ちます。

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チアゴがFWラインとMFラインの間にあるゾーンの隙間でボールを受けます。現状左サイドにドルトムントが少し寄っているので、空いている右サイドにボールを供給します。

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素早いサイドチェンジでWGコスタがSBと1対1になりました。ドルトムントとしては危険な状況ですね。

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コスタのドリブルに対してドルトムントは全体的に後退し、SHがサポートにいきます。そこを狙ってSBラームがSBの裏を狙います。

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SBの裏でラームがフリーでボールを持ちます。CBがカバーリングしたかった場面ですが、FWミュラーのポジショニングによって防いでいました。あとはフリーになったことを活用して高精度のクロスを供給するだけ。

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しかし、ここもドルトムントギリギリで防ぎました。WGコスタの能力を囮として活用し、有利な状況を作り出した場面でした。

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最後の例もWGの能力を利用したもので、上記2つの例より素早い攻撃を仕掛けています。

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CBボアテングがボールを持っています。中央でバイエルン選手陣がゾーンの隙間でポジショニングしているのが確認できますね。それによってドルトムントは中央に集結しています。こうなれば、サイドのスペースが少し空くので。

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WGコスタに向けてロングボール。

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またもやSBと1対1。ポジショナルプレーによって再びバイエルンにとって有利な状況を作り出しています。

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そして、コスタが1対1を制して、中にクロスをあげます。

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FWミュラーが絶妙なタイミングで走り込んできますが、ドルトムントも必死の対応。

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ここでもギリギリで止めました。

 以上3つの例からわかる通り、ポジショナルプレーを利用して、WGという強力な武器を活かす状況を作り出し、大きなチャンスを何度も作り出しています。

メッシを中心とした中央突破で世界を支配したペップでしたが、バイエルンではWGを利用したサイド攻撃で世界でも最強のチームの1つとなりました。

フィジカル重視なブンデスリーガでもポジショナルプレーが大いに有効なのがわかりますし、ポジショナルプレーが非常に柔軟なプレースタイルなのがわかりますね。

マンチェスターシティ

バイエルンでの3年間を経て、ペップはイングランドプレミアリーグのマンチェスターシティに移りました。ドイツ同様フィジカルが重視されるリーグで、そして世界でも有数の強豪がひしめくリーグです。そこでもポジショナルプレーが有効かどうか。

 マンチェスターシティはサイドにも中央にも素晴らしい選手がいます。サイドはスターリングやグリーリッシュ。中央はデブルイネやフォーデン。サイド突破も中央突破も行ける、2014−15のバルセロナのようなすべてが強いチームです。それではプレーを見ていきましょう。

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まずはサイド攻撃から見ていきましょう。相手は最強リバプールです。

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CBストーンズがボールを持っています。ゾーンの隙間でCHロドリゴがボールを受けようとしています。

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ロドリゴがボールを受け前を向きます。ここには映ってませんが、CHデブルイネとWGシウバがDFライン前のゾーンの隙間でポジショニングしています。また。SBウォーカーが高い位置にいることでリバプールのSHを引き付け、WGシウバへのパスコースを作っています。

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ゾーンの隙間にいたWGシウバにボールが渡ります。そして、FWジェズスがCB間のゾーンの隙間にいることでCBダイクが中央に引き付けられています。それを利用して、右サイドで2対1の状況を作り出しています。

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デブルイネがSBの裏のスペースに抜け出しチャンス。中央ではFWジェズスがCBのマークを外してフリーになっています。

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しかし、クロスはGKアリソンがうまく処理。ゾーンの隙間を利用した右サイドからの強力な攻撃でした。

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続いては左サイドからの攻撃です。この試合では左サイドにスターリングがいました。彼のドリブル能力を有効利用した攻撃です。

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GKブラーボがボールを持っています。リバプールは3選手で前線へのパスコースを消そうとしています。

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しかし、FWサラーの縦パスへの警戒が少し切れたところで生まれたゾーンの隙間で、CHロドリゴがボールを受けます。

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FWサラーがプレスをかけますが、それによって空いた右SBシェフチェンコにパスを渡します。

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シェフチェンコからWGスターリングへパスが出ます。この場面、まずSHがSBシェフチェンコを警戒してスターリングにプレスをかけていません。またCBの前にCHシルバがポジショニングすることで、SBのサポートをできないようにしています。これによって、スターリングがSBと1対1を仕掛けることができる状況です。

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ドリブルを仕掛けるスターリングに対して、CBがSBの後ろにポジショニングできていませんね。つまりカバーのポジションにいないということです。

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スターリングがSBとの1対1を制し、CBがダッシュでカバーしにいきます。中央ではFWジェズスとCHデブルイネがゴールを狙っています。リバプールにとっては危険な状況ですね。

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しかし、ここはスターリングのクロスは精度が悪く、CBダイクがクリアします。ただ、WGの攻撃力を利用した強力な攻撃でした。

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最後は中央からの攻撃です。現在世界最高の選手の1人と言っても過言ではないデブルイネの得点シーン。相手は強豪チェルシー。見ていきましょう。

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チェルシーのゴールキックをマンチェスターシティが回収した場面。

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回収したロドリゴからSBカンセロにパスが渡ります。先ほどのゴールキック回収に際にチェルシーのCHカンテがロドリゴに対応したため、バイタルエリアに大きなゾーンの隙間が生まれています。そこを逃さずデブルイネがポジショニング。ただ、それをすぐさま察知してカンテも対応しようとしています。

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デブルイネにパスが通ります。しかし、カンテもすぐさまプレスに向かっていますね。カンテは世界屈指のつぶし屋ですが、

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カンテのプレスを振り切り、ゴールに迫るデブルイネ。そして、フォーデンがCBの裏に抜け出す動きで、CBを牽制しています。これによって、チェルシーとしてはデブルイネにプレスをかけることができない状況。

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そのままゴールに進むデブルイネ。ミドルシュート圏内まで進んだところでシュート。

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シュートは綺麗な弾道を描きながら。

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ゴールに吸い込まれました。デブルイネのオールマイティーな才能が発揮された場面でした。

 以上のように、サイドからも中央からも選手の強みを発揮できるチームであることがわかりますね。相手チームからすれば、非常に止めにくい相手です。そして、これらの攻撃を支えているのがポジショナルプレーというのも理解していただけたでしょう。

ポジショナルプレーは選手を活かす

2013−14シーズンにバルセロナが無冠に終わったことから、ポジショナルプレーは時代遅れだという意見が散見されました。しかし、その意見が間違っていることは、それ以降のポジショナルプレーを活用するチームによって証明されました。ポジショナルプレーは終わりません。

 なぜポジショナルプレーは終わらないと言えるのか。その理由は先ほど言った通り、ポジショナルプレーがサッカーの弱点をつくからです。ポジショナルプレーは「11人ではあの広いピッチを守り切れない」というサッカーの本質を利用していることをこれまでの記事で理解していただけたでしょう。

また、今後サッカーにおいてゾーンディフェンスが消えることはないでしょうし、マンマークディフェンスが主流になる可能性が非常に低いということも、ポジショナルプレーが終わらないと言える理由です。ゾーンディフェンスがある限り、ゾーンの隙間が生まれ、そのゾーンの隙間を有効活用するポジショナルプレーがなくなることはないと思うからです。

 そして、ポジショナルプレーが非常に有効なプレースタイルである最大の理由があります。それは、選手の才能を大いに発揮させることができる点です。どんな選手も厳しいプレッシャーの中で才能を発揮するのは難しいです。なので選手の才能を発揮させるために必要なことは、選手たちをプレッシャーから解放させること。

そして、プレッシャーから効果的に解放させることができるのがポジショナルプレーです。これまでの記事でご紹介してきましたが、チームの武器となる選手をプレッシャーから解放するために、ゾーンの隙間を利用して相手選手を動かし、相手選手を武器となる選手から遠ざけていることがわかります。これがポジショナルプレーの真の強さであり、ポジショナルプレーが終わらない最大の理由です。

 サッカーの弱点をつき、選手の才能を発揮させるポジショナルプレーは、今後も進化し続けるでしょう。来シーズンもシャビが率いるバルセロナやペップ率いるマンチェスターシティを筆頭に多くのチームが、以前に比べて格段に速く強くなったサッカー界でもポジショナルプレーを駆使し、優れたサッカーを披露してくれることを楽しみにしています。今後もポジショナルプレーの進化を一緒に見ていきましょう。

最後に:【ポジショナルプレーの戦い⑥】選手の才能をどう活かすか

今回は「ポジショナルプレーの柔軟性」について記事を書きました。ポジショナルプレーは、チームにいる選手に合わせて戦い方を変えることができるプレースタイルであり、サッカーの弱点をつくため相手にとって止めることが難しいものです。

今後もポジショナルプレーは存在し続けるでしょうし、ペップのようにその時代に合わせたものに改良していく人も現れるでしょう。今後のポジショナルプレーにも期待ですね。

 今回の記事でシリーズ「ポジショナルプレーの戦い」は終わりです。このシリーズを通じて、攻撃面に関して「ポジショナルプレーとは何か?」少し理解できたでしょうか?今後、今シリーズの内容をもっとうまくまとめた記事を出すことも考えていますので、お楽しみに。

 また、次のシリーズではポジショナルプレーの守備面に関して記事を作成していこうと思います。現代サッカーにおいて攻守は完全に一体なものであり、トラディションは最も重要な要素となりつつあります。

そして、ポジショナルプレーはその点についても有効です。ポジショナルプレーが守備面においても有効なことを、シリーズ「トラディションを制するポジショナルプレー」と題して記事にしていこうと思います。

ただ、分析に時間がかかりそうなので、更新は8月以降になります。ヨーロッパの新シーズンスタート前には投稿する予定です。

今回の記事で何かご意見等ございましたら、気軽にコメントしてください。

 また、同シリーズの他記事もありますので、ぜひお読みください。

・ポジショナルプレーの戦い

・ポジショナルプレーの戦い②

・ポジショナルプレーの戦い③

・ポジショナルプレーの戦い④

・ポジショナルプレーの戦い⑤

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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