【ポジショナルプレーの戦い③】インテンシティによる破壊
前回の記事ではポジショナルプレーをより理解してもらうために、2010−11のバルセロナ vs レアルマドリッドの分析を通じてポジショナルプレーの有用性をご紹介しました。その試合ではレアルの守備を完全に手玉にとり、5-0という圧勝を演じたポジショナルプレーを見ることができました。
レアルの守備はバルセロナのポジショナルプレーを防ぐのにはまったく不十分で、逆にポジショナルプレーの強さを最大限発揮させるような結果になりました。ただ、その試合以降、レアルの守備は大きく変化しました。そして、その戦い方は多くのチームに「バルセロナの倒し方」のモデルとして使われるようになってます。
今回は、2011−12のバルセロナ vs レアルマドリッドの分析を通じて「どのようにバルセロナを倒したのか?」をご紹介していきます。ポジショナルプレー対策を通じてよりポジショナルプレーの理解を深められる機会になると思いますので、ぜひ最後までお楽しみください。
自由を奪え
守備で最も重要なことは「自由を奪うこと」です。昔のフットボールはマンツーマンディフェンスが基本であり、1 on 1に多く勝てるチームが勝つスポーツだったみたいです。そんな中、ピッチ上に局地的な数的優位を作りボールを奪う守備が生まれました。それがゾーンディフェンスです。
当時イタリアで暴れまくっていたマラドーナを止めるべく、アリーゴサッキがゾーンディフェンスを生み出し、マラドーナから効果的に自由を奪うことに成功しました。そして、今や全世界のチームの基本的守備として定着しています。
ゾーンディフェンスは、選手の能力差にあまり左右されずに、相手チームから自由を奪うことができる守備戦術です。しかし、ペップバルセロナはそのゾーンディフェンスを壊すことができるプレースタイルであるポジショナルプレーを活用し、サッカー界を支配しました。
つまり、単純なゾーンディフェンスでは、ペップバルセロナから自由を奪うことができなかったのです。前回の記事で紹介したような試合はその一例でしょう。
どのようにペップバルセロナから自由を奪うのか?それは欧州サッカー界のすべてのチームにとっての課題でした。そしてその課題の答えは「インテンシティを極める」でした。この”インテンシティ”という言葉は、今や世界の全サッカーチームが考慮しなければならないほどの重要な要素の1つと言っても過言ではありません。じっくり説明していきます。
インテンシティを極める
インテンシティとは、”プレー強度”という意味で使われています。インテンシティという言葉は、日本では元日本代表監督のザッケローニさんが使って広まった印象です。基本的には守備に関する言葉ですが、スペインなどでは攻撃に関しても使われているそうです。
「プレー強度とは何か?」は、いろんな国や人で様々な解釈があるので、一律の解釈がない印象です。なので、この記事では以下のものを「インテンシティ」として解釈します。
- 1:プレスの強さ
- 2:プレスのしつこさ
- 3:プレスの正確さ
- 4:プレスの頻度
- 5:スペースのカバーの頻度
- 6:スペースのカバーの正確さ
これら6つの要素は、先ほど述べた「相手から自由を奪う」上でとても大事です。まずボール保持者を自由にさせないために1〜3が必要です。また90分間自由を奪うことが必要なので、4も非常に重要です。
そして、相手チーム全体を機能させないために、5と6も必要です。ボール保持者だけに激しくプレスをしても必ず攻撃を止められるわけではないからです。
例えばメッシのような選手は周りの選手を使うのも非常にうまいので、うまく攻撃されてしまいます。なので5と6を徹底することで、周りの選手との連携も破壊すること、そしてチーム全体の機能を破壊することができます。
以上、インテンシティについて簡単に説明してきました。インテンシティの定義は人によって変わりますが、守備が強い=インテンシティが高いと言っても問題ないでしょう。
例えば今のアトレティコマドリードやミラクルを起こしたレスターなど、守備を武器に欧州で飛躍したチームは一概に「インテンシティが非常に高い」と言われます。
これから説明していくレアルマドリッドの守備も「インテンシティが高い守備」だと認識しているので、ぜひこの後もご覧になって「インテンシティとは何か?」をより理解してくれればと思います。
前半:レアルの守備
前回の記事でご紹介した2010−11のバルセロナ vs レアルマドリッドでは5−0の完敗に終わったレアル。しかしそれ以降の試合ではどんどん互角にやり合えるようになっていきます。そんな中、ペップバルセロナでの最後のクラシコでは、レアルは完全に互角にやり合ったと言える試合を演じました。
結果は1−2でレアルの勝利。しかも試合会場はバルセロナの本拠地であるカンプノウ。5−0で完敗した試合とは全く別のチームであり、あのタレント集団が素晴らしいインテンシティで走り切った試合なので感動を覚えるレベルでした。
前半のみならず後半もですが、とにかくバルセロナに自由にボールを回させないように、各選手が走ってプレスを繰り返していました。ただ、相手もバルセロナなので、むやみやたらにプレスに当たりに行っても、それを利用されて失点してしまう可能性が高くなります。なのでレアルの守備は、しっかりと組織されたものでした。それでは前半から見ていきましょう。
激しいプレスでプレーを制限
5−0で完敗した試合での大きな失敗の1つは「自由にボールを回されすぎた」ことです。後半はまだマシでしたが、前半はやられたい放題でした。なので、この試合では、90分間通してボール保持者に当たりに行く守備(以下、プレス)をおこなっています。
ボール保持者にプレスを行うことで、ボール保持者は素早いプレーを強制されます。それがミスに繋がり、ボール奪取やカウンターの機会になります。実際のプレーを見ていきましょう。
中盤でチアゴがボールを持っています。それに対してエジルがプレスを行います。バルセロナの選手たちはボールを扱う技術が非常に高いので、レアルの守備では基本的に1mほどまず近づき、隙やミスを見せた場合に強く当たりに行くディフェンスを行います。続きを見ていきましょう。
チアゴからブスケッツにボールが渡ります。それに対してFWベンゼマがプレスを行います。また、中央でメッシがボールを受けに行く動きを見せますが、CB(センターバック)のラモスが同じくCBのぺぺにプレスに行くように指示を出しているのが確認できます。ぺぺもプレスを開始していますね。
チアゴに再びボールが渡ります。エジルがプレスを行います。また、SH(サイドハーフ)のディマリアが自身の後方にいるイニエスタへのパスコースを切る動きを見せます。
それに対して、チアゴは横にいるアドリアーノにパスを出します。レアルからすればまったく怖くないパスですね。アドリアーノに対してはディマリアがプレスを開始しています。
イニエスタがサイドに移動しボールを受けます。ケディラがイニエスタにプレスをかけます。
イニエスタからWG(ウイング)クエンカにパスが渡ります。クエンカに対してはSB(サイドバック)のアルベロアにプレスをかけます。クエンカが中央にドリブルを行いますが、それに対してアルベロアもしっかりついていきます。
クエンカの中央へのドリブルに対してエジルもプレスをかけにいきますが、エジルがいなくなったことでフリーになったチアゴにパスが回ります。そのチアゴに対してディマリアがプレスをかけ、バックパスをさせます。
アドリアーノにパスが渡り、ディマリアがプレスをかけます。
レアルの選手がプレスをかけ続けたことで、バルセロナはCBのマスチェラーノにまでボールを戻すことになりました。
5−0の試合とは打って変わって、今回はレアルがバルセロナにプレーを強制させているような流れになっていますね。モウリーニョが言っていたとおり、守備でも試合を支配できるのです。
このように90分間通して、レアルはプレスをかけ続けていました。それに対してバルセロナは多くの時間、効果的なボール回しをできずにいました。この守備は非常に優れていました。まさしく「インテンシティの高い守備」でしたね。
バイタルエリアを死守する
現代サッカーにおいて最も重視されているエリアがバイタルエリアです。
DFラインとMFラインの間のことを、バイタルエリアと呼びます。他のエリアと比べて、このエリアでフリーマンを作ったりすることが得点に直結する確率が高いのが統計的に出ているみたいです。なぜ得点に直結するのかは、前回の5−0の試合のプレーを見ればわかります。
バイタルエリアでメッシがフリーでボールを持っています。プレッシャーがないためドリブルを始めます。
この場面でまず重要なことは効果的なパスコースを確保できることです。ドリブルしているメッシに対して、バルセロナの選手2人が裏に抜けようとしており、そこにパスを通せる状況です。
次に、ボール保持している選手に対して受け身な守備にならざるおえないことです。ドリブルしているメッシにレアルの選手が当たりにいくべきですが、1人しか当たっていません。
理由は、先ほど述べたとおり「効果的なパスコースがあること」と、「ドリブルで抜かれる可能性が高い」からです。サッカーの常識ですが、前を向いてドリブルしている相手には守備側は不利になります。
特にこの場面では、ドリブルしている選手はあのメッシです。なので、メッシのアクションに対して、最後まで何をしてくるかを待つ必要があります。迂闊に当たりに行けば、簡単に抜かれてより危険な状況になってしまいます。
ただ、激しく当たりに行くことができなければ、メッシは自分でシュートまで持っていったり、もしくは他選手に効果的なパスを出したりすることができますよね。
逆に激しく当たりにいってファールしてしまえば、危険な位置でフリーキックを与えることになります。これまでの説明でわかると思いますが、バイタルエリアで効果的にボールを持たれると、守備側としては非常に対応しづらいのです。
特にペップバルセロナにおいて最も破壊力がある攻撃は、「右サイド寄りのバイタルエリアでメッシにフリーで前を向かせること」でした。この攻撃をいかに止めるかが、どのチームにおいても最も重要な課題でした。それは今回のレアルマドリードもしかり。
イニエスタが左サイドでボールを持っています。この時、メッシが右サイドでボールを受けようとしていますね。ただそれを察知してCH(センターハーフ)のアロンソがシャビのマークをCBに渡して、メッシに対応する準備をしています。
メッシにボールが渡りましたが、アロンソが対応します。他の場面でもメッシをフリーにさせないように守備をしていました。
マスチェラーノがボールを持っています。アロンソはシャビをマークし、ケディラはイニエスタをマークしています。それを利用してメッシが中央で受けようとしています。マスチェラーノがメッシにパスを出そうとしていますが、CBのラモスがすぐにプレスをかけようとしています。
メッシにパスが来ますが、ラモスがカットします。このようにこの試合のレアルはバイタルエリアを死守するために必死にプレーしていました。
コンパクトに守る。できないなら後退する。
前回の記事で言いましたが、相手選手との距離感は守備をする上で非常に重要です。5−0の試合では距離感が遠く、うまくプレスをかけることができていませんでした。今回はそこを修正。
中盤に多くの選手が集結しているのがわかりますね。バイタルエリア死守が必要ですから、中盤に多くの人を割くのがバルセロナ対策です。このように陣形を組めば、もし中盤にパスを通そうとするなら、すぐにプレスにいけますよね。
ただ、相手はバルセロナですから、いくらコンパクトに守っていても危ない状況を作られる場面もあります。
アドリアーノがボールを持っています。ブスケッツがフリーになっているのでパスを出します。
FWベンゼマが急いでプレスをして、ブスケッツからボール奪取に成功します。
ただ、カウンターを防がれてバルセロナが再びボールを保持します。トラディション後なので、2センターが両方高い位置にいます。その結果シャビがフリーになっています。
シャビにパスが通ります。アロンソも間に合わず、MFラインを突破されます。そのままサイドへ展開。
サイドでアウベスがボールを持ってドリブルを開始します。残っているのがDFラインだけなので、レアルとしては不利な状況です。この場合、レアルの守備はアウベスに無理に当たりに行かずに、一定の距離感を保ちながら攻撃のペースを落とさせて、残りの選手の帰還を待ちます。
CH2人が帰ってきましたね。
その2秒後にはMFライン全員帰還して、ゴール前にコンパクトな陣形を作りました。このように「激しく当たりに行く時は行く」、「陣形が崩された時は後退して陣形を作り直す」のをうまく行っていました。
マスチェラーノにボールを持たせる
ここからはより詳細な守備を説明します。まずは「マスチェラーノにボールを持たせる」です。バルセロナは巧みにフリーマンを作ってくるので、あらかじめ数的優位を作って準備しておく必要があります。今回の試合では、CBマスチェラーノには当たりに行かず、中盤での数的優位を確保する守備をしていました。
マスチェラーノがボールを保持して前進しています。誰も当たりにいきません。その代わりに他の選手をマークしています。
マスチェラーノがまだボールを保持しています。シャビが下がってきますが、アロンソがマークしています(縦パス警戒のためベッタリはマークせず)。出しどころがなくなったマスチェラーノはサイドにロングパスを出すことになります。
ロングボールの競り合いは、フィジカルで劣るバルセロナは不利な状況です。また、マスチェラーノはパスの技術があまり高くありません(特にバルセロナ守備陣の中では)。
なので、マスチェラーノをフリーにすることで、中盤での数的優位を保つこと、精度の低いパスをカット→カウンターを狙っていました。
ただ、バルセロナもわかっているので、あまりマスチェラーノからのパス出しは行われませんでした。
2センターでマンマーク+中央ケア
5−0の試合で行っていた2センターの守備を継続しました。シャビとイニエスタに自由にプレーされるとバルセロナを止めることはできませんから、2センターでマンマーク気味の守備をしました。左サイドにボールがある場合は、ケディラがイニエスタをマークし、アロンソは中央のスペースを埋めます。
ただ右サイドにボールがある場合は、アロンソはシャビのケアをしますが、ケディラはそのままイニエスタのマークをしていることが多かったです。
アロンソがメッシに対応しています。ただ、ケディラは右SBの近くにいますね。なぜならイニエスタがその付近にいるからです。
2センターは基本的に説明した動きを見せていました。本当に危険な時はケディラもイニエスタのマークを捨てて中央のケアをしてましたが、その回数は数えるほどでしたかね。
サイド守備
右サイドの守備ですが、バルセロナの選手がレアルのSBと対峙する際に、アロンソがSBのサポートに行く動きが見られました。
バルセロナのフォーメーションは3−4−3で、右WGを本職SBのアウベスが担っています。SBが本職のアウベスですが、ドリブル能力が非常に高いので抜かれる可能性は一定数あります。
また、バルセロナ相手に中央を空けることは死も同然ですから、CBがSBのサポートに回るのはよくないと考えたのでしょうか、CBはゴール前にいます。
そして、右SHがロナウドなのでサポートは頼めません(カウンター要員)。なので、代わりにCHのアロンソがサポートに行きます。以上の理由からかはわかりませんが、アロンソが右サイドの守備に参加するようになっていました。
中盤の穴埋め
5−0の試合で頻発しましたが、2センターではMFラインを守り切ることができません。なので、他の前線の選手も中盤の守備に積極的に参加していました。
この場面、トップ下のエジルがチアゴのマークとケディラのサポート、そしてFWのベンゼマまでもが下がってブスケッツのマークを行っています。また、サイドのディマリアとロナウドも低い位置に下がっているのがわかります。
他の場面ですが、メッシを中心に攻撃している場面。ディマリアがこの位置まで下がって守備しています。
このように、2センターだけでなく、サイドの選手、トップ下、そしてFWまでもがMFラインの穴埋めを積極的に行うのが、今回のレアルの特徴でしたね。インテンシティが非常に高く、この守備にはバルセロナもかなり苦戦していたので、素晴らしい対策でした。
CBも積極的にボールにアタック
最後に、「CBも積極的にボールにアタック」です。5−0の試合では、CBが持ち場をあまり離れず、裏抜けに対する守備を優先している印象でした。
今回の試合ではCBが積極的に持ち場を離れて、中盤でフリーになっている選手にプレスしていく場面が多く見られました。
MFラインを突破される可能性がある場合、CBがフリーマンを潰しに行く仕事を担っている印象でした。
5−0の試合では中盤にフリーマンを作られすぎましたが、今回はCBが的確に仕事を行うことで、フリーマンを作られる機会が大幅に減少した感じがしました。CBのインテンシティの高さにバルセロナも非常に苦戦していた印象です。
前半:バルセロナの攻撃
ここではバルセロナの攻撃を説明していきます。先ほど説明したとおり、レアルの守備は非常に強固なものでした。特にMFラインとDFラインの攻略に非常に苦戦していました。
また、バルセロナのサイド攻撃がほとんど機能していなかったのも、レアルの優位性をより強固なものにした要因の1つです。1つずつ説明していきます。
FWラインの攻略
FWラインの攻略には、レアルのトップ下のエジルを狙っていました。まずバルセロナは3−4ー3で、中盤が四角形のフォーメーションを取っていました。
FWラインの守備で利用したのは、ベンゼマの高い位置を取る守備、2センターのマンマーク守備です。一連のプレーを見ていきましょう。
チアゴがボールを持っています。エジルが当たりにいきますが、ベンゼマも当たりに行っています。確かではないですが、このベンゼマのプレスは間違ったアクションだと思ってます。なぜなら、横にいるブスケッツのパスコースが完全に空いているからです。
マスチェラーノのパスコースを空けるならいいですが、ブスケッツはダメです。彼は前方に素晴らしいパスを供給できるので。
ブスケッツに渡ります。ベンゼマが必死にプレスに行っているのがわかります。エジルはチアゴのマークを外し、中央にいるメッシへのパスコースを消しに動いています。つまり、チアゴがフリーになります。
エジルが当たりにいきます。チアゴが前を向いて前線にパスを送れる状況です。FWラインを攻略しかけています。ただ、ディマリアが下がってイニエスタのパスコースを消そうと動いていたので、チアゴは安全な横パスを選びます。
少し飛ばして、サイド展開から中央に戻ってきた後のプレーを見ていきます。
アドリアーノに渡ります。
マスチェラーノにボールが渡ります。エジルは先ほどの守備でサイドに引っ張り出されています。この時のベンゼマのポジショニングを見てください。センターサークル中央付近にいるブスケッツへのパスコースを切ることもなく、近くでマークするわけでもないポジショニングをしています。
作戦の範囲内かもしれませんが、エジルが非常に広い範囲動き回るので、中央のスペースを空けてしまうことが度々ありました。またアロンソとケディラがそれぞれイニエスタとシャビをマンマーク気味に守備することも中央にスペースを生む要因になっています。
ブスケッツにパスが通りましたが、エジルが必死で食らいつきファールで止めました。他の場面も同様に、エジルが空けた穴を狙ってFWラインを攻略していました。イラストでも確認しましょう。
以上のように、エジルを引き出して、空けたスペースをつくというゾーンの隙間を利用した攻撃で攻略してました。
ただ、レアルの守備も洗練されていたので、すぐにプレスをかけて止めたり、危ない場面では後退したりして、穴がそれ以上大きくならないように必死に食らいついていましたね。
MFラインの攻略
レアルの守備の説明であった通り、中盤に多くの人を割く守備を行っていたので、フリーマンを作り出すのも難しく、フリーマンを作り出してもすぐに対応されていました。ここでは数少ないうまくいっていた場面をご説明します。
サイドでアウベスがボールを持っています。先ほどのレアルの守備の説明でありましたが、この場合SBのサポートをCHのアロンソが行います。また、もう1人のCHのケディラはイニエスタのマークを優先しています。
シャビはCBの前に位置して、CBが前に出れないようにしているのがわかります。なので、メッシが中央でフリーになっています。
メッシにボールが渡り、MFラインを攻略しました。ただ、こういう場面も数えるほどしか作れず、かなり苦戦していた印象です。イラストでも確認しましょう。
レアルの守備の特徴によって生まれるゾーンの隙間をうまく利用しているのがわかりますね。
DFラインの攻略
MFラインと同様、DFラインの攻略も数えるほどしかできていませんでした。右WGのアウベスは本職SBなので攻撃力は高くないですし、左WGのクエンカも新人だったのでサイドをうまく攻略できませんでした。なので、残るは中央からの攻略をするしかありませんでした。
ただ、レアルもわかっているので、中央の守備に集中して行っていましたね。そんな中で生まれる数少ない穴を狙って攻略した場面が何度かあります。
チアゴがボールを持っています。エジルが後方からプレスを行おうとしています。
シャビにボールが渡ります。
メッシにボールを渡して、すぐにシャビに返します。シャビがエジルとアロンソを引き付けながら、メッシにボールを渡します。
メッシはエジルが引き付けられて空いたスペースにドリブルで侵入します。それを察したCBのラモスがプレスにいきます。これはレアルの守備の特徴の1つでしたね。ここで注目なのが、ラモスが空けたスペースにシャビがいることです。そこを狙ってメッシがパスを出します。
惜しくもシャビのシュートは外れます。前半の数少ないチャンスであり、DFラインを崩した場面でした。エジルの守備とCBの守備の特徴を利用した攻撃でした。最後にイラストでも確認しましょう。
針の穴に糸を通すようなパスが必要ですが、メッシならやってのけます。しかも高速でドリブルしながら。恐ろしい選手ですね。
前半統括
前半は中々隙を見せないレアルに対して、効果的な攻撃ができないバルセロナという構図でした。バルセロナも巧みなポジショニングと流動的なポジションチェンジでフリーマンを作る場面も見られましたが、コンパクトな布陣と優れた判断で守るレアルによってすぐに対応されることが非常に多かったです。
また、シャビのGKとの1対1など、数少ない穴を狙ってした攻撃もゴールにならず、バルセロナとしては非常に劣勢だったといえます。
逆にレアルとしては狙い通りに試合を進めることができていたと思います。5−0の試合とは打って変わって、守備によって試合を支配していましたね。
記事の最初に述べたインテンシティをしっかりと意識して、非常に優れたタレントを持つ集団が、いちチームとして必死に走って食らいついていました。それが前半の優勢に繋がっていましたね。
後半:レアルの守備
後半も同じような流れになりました。バルセロナに大きな変化は見られず、前半と同じように攻めていたように思えます。それに応じて、レアルも前半同様に守っていました。ただ、1点だけレアルの守備が変化しているところもありましたので、その点をご紹介しますね。
中盤の穴埋め(右サイド攻撃時)
前半のバルセロナの攻撃で説明した内容にありましたが、シャビが決定機を迎えたシーン。
この場面で問題だったのは、アロンソが右サイドに引っ張り出されて、中央にスペースが生まれることでした。
この場面ではエジルが埋めているように見えますが、アロンソとの距離が近すぎて埋めきれていません。他にも同じようにアロンソとケディラの間のスペースを狙われてチャンスになりかけていた場面がいくつかありました。
このスペースをメッシに使われていることが何度か見られました。後半はこの部分を修正しました。
サイドにボールが渡った後からの一連のプレーになります。前半同様にアロンソはSBのサポートに行っていますね。ただ、そこでエジルはサイドに寄り過ぎず、メッシの近くにポジショニングしています。なのでメッシにボールが渡っても、ゴールに向かったドリブルをできずに、レアルにとって怖い攻撃をすることができていません。
このように、他の場面でもエジルがしっかり中央をケアすることで、前半の問題を解決していました。
後半:バルセロナの攻撃
後半も同じようにスタートしたバルセロナでしたが、前半同様うまくチャンスを作れず、シャビをFWサンチェスと交代させました。この交代策で大きく流れを変えることはできませんでしたが、1点奪うことに成功していました。得点シーンを見ていきましょう。
カウンターを防いだところで、イニエスタがボールを保持しています。
メッシにパスを出します。それに対してアロンソがパスカットしにいきます。
アロンソのパスカットが失敗し、メッシがドリブルを開始します。ケディラもイニエスタのマークを捨てて、メッシにプレスしにいきます。
ケディラのプレスも失敗しました。ここまでで大事なのは、CBがまだ当たりに来ていない点です。前半のCBの守備なら、前に当たりに行く守備を積極的に行っていましたが、サンチェス投入後は前半に比べて頻度は下がりました。理由はサンチェスがCBの裏を狙うからです。
サンチェスはFWとして非常に優れた選手であり、他のレアルマドリードとの試合で、同じようにメッシのドリブル突破から裏抜けし、得点を奪ったことがあります。
そこを警戒したのか、CBはメッシにあたりに来ず、サンチェスのケアを優先しています。この状況をメッシを含めてバルセロナが利用します。続きを見ていきましょう。
遅れてCBがメッシにあたりに来ますが、メッシは最終的にDFを3人引き付けて、イニエスタにパスを出します。ケディラはメッシにあたりに行っていたので、イニエスタはフリーでボールを受けます。
ただ、そこを素早く察知してSBのアルベロアがWGのクエンカのマークを捨ててイニエスタに当たりにいきます。これは非常にインテンシティが高い守備だといえます。
しかし、画像では伝えづらいですが、メッシからのパスをイニエスタが変態ヒールパスで、フリーになったクエンカにボールを繋ぎます。
クエンカのシュートはGKカシージャスに止められますが、混戦状態の中でサンチェスがボールをゴールに押し込み同点に追いつきました。
ただ、得点はこの1点止まりでした。レアルの集中した守備の前に、非常に苦戦を強いられていましたし、サイド攻撃も全く機能せず、前半同様劣勢でしたね。
後半統括
後半も前半同様に、非常に集中した守備でバルセロナの攻撃を防いでいたレアルでした。相手もバルセロナですし、毎回各選手が正しい守備を行えませんが、それでも周りの選手がうまくカバーして防いでいました。例えば次の一連のプレーがそれにあたります。
シャビがボールを保持しています。チアゴがサイドに動き、中央にいるブスケッツにパスを出せる状況を作り出します。
エジルはチアゴについて行っています。またFWベンゼマもシャビにあたりに行っています(完全に遅れてますね)。一連の流れからブスケッツが中央でフリーになります。
ディマリアが遅れてあたりに行っています。イニエスタをマークしていたケディラも遅れてブスケッツに対応しようとしています。ディマリアとケディラ、特にケディラがイニエスタかブスケッツどちらに対応するのか非常に迷って中途半端な対応になっています。
それによってイニエスタがフリーで裏に抜けようとしています。ただ、それを瞬時に察知したCBのぺぺが自分の持ち場を捨てて、イニエスタに素早く対応します。
ブスケッツの浮き玉パスをぺぺが弾き返して、チャンスを未然に潰しました。このように各選手が「どこを優先的に守るべきか?」をしっかり理解して守っていたのが非常に印象的でしたね。まさしく「インテンシティの高い守備」です。
このような守備を非常に高いレベルで遂行した結果、1−2という勝利を掴むことができたのでしょう。
試合統括
「守備で試合を支配する」というモウリーニョの言葉を、モウリーニョ自身が結果で証明した試合でした。非常にインテンシティの高い守備によって、バルセロナを苦しめて勝利をもぎ取りました。
ポジショナルプレーの観点からいえば、ゾーンの隙間を極端に小さくしたり、無くしたりすることで、バルセロナを苦しめていました。以下が普通のゾーンディフェンス。
次が今回のレアルの守備です。
例えば以下の場面などは、上イラストをうまく表しています。
また、2センターの守備の説明にもありましたが、イニエスタやシャビをマンマーク気味に守備することで、そもそもゾーンの隙間でボールを受けさせない守備もしていましたね。このように守ることで、ポジショナルプレーの武器をつぶしていました。
バルセロナにとっては、もっとサイドの攻撃が機能すればと思っていたでしょう。サイド攻撃が全く機能してなかったことで、レアルが中央にこれだけコンパクトな陣形を敷くことができたので。
試合全体を通して、ポジショナルプレー対策をしっかり遂行できたレアルの働きに感動した試合でした。
最後に:【ポジショナルプレーの戦い③】インテンシティによる破壊
今回は、1−2でレアルが勝利したクラシコの分析を通じて、ポジショナルプレー対策をご説明し、ポジショナルプレーの理解を深めていきました。また、インテンシティの意味も理解していただけたと思います。
高いインテンシティを駆使してペップバルセロナを破壊したレアルの守備は見事の一言でした。この試合を見て思ったのは、「もっと日本もインテンシティを極めようよ」ということ。A代表のみならず、どの年代でも日本のチームは非常にインテンシティが低いです。
インテンシティが高いチームは試合に勝つ確率が上がるにもかかわらず、今だに低いのが疑問です。Jリーグでも高校年代でも、インテンシティをあげようとしているチームが見当たらないのは残念です。
これからインテンシティが高いチームが生まれることを期待して待ちましょう。
今回の記事で何かご意見等ございましたら、気軽にコメントしてください。
また、同シリーズの他記事もありますので、ぜひお読みください。
・ポジショナルプレーの戦い①
・ポジショナルプレーの戦い②
・ポジショナルプレーの戦い④
・ポジショナルプレーの戦い⑤
・ポジショナルプレーの戦い⑥
最後までお読みいただきありがとうございました。
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